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フィルムセンター火災から40年 デジタル化で岐路に立つ映画保存、データ消滅の危機も

産経ニュース / 2024年7月19日 11時26分

可燃性のフィルムを収容する映画保存棟Ⅲ内部。大沢浄主任研究員が手にしているのは昭和2年に複製された「紅葉狩」(明治32年)のネガ(重要文化財)=6月19日、相模原市中央区の国立映画アーカイブ相模原分館

東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ=NFAJ)で多くの映画作品が失われた昭和59年の火災から、今年で40年がたった。火災をきっかけに、映画フィルムの保存状況は大きく改善した。しかし、近年急速に進んだデジタル化で、映画が消えたり、散逸したりする危険性が高まっており、映画の保存は岐路に立っている。

火災でフィルム保存に注目

昭和59年9月3日、東京都中央区のフィルムセンター5階フィルム収蔵庫で火災が発生。外国映画330巻が焼失した。その中には、当時日本にしかなかった独映画「朝から夜中まで」(1920年)も含まれていた。しかし、幸いコピーが作られていたので、作品自体が失われることはなかった。

この火災は大きく報じられ、NFAJの大沢浄主任研究員は、「皮肉なことに、映画フィルムを保存する重要性が、広く知られるきっかけになった」と話す。

現在、NFAJの所蔵フィルムは、火災の2年後に完成した相模原分館(相模原市)で保管されている。

収蔵作品は、現存する最古の邦画「紅葉狩」(明治32年製作、昭和2年複製のネガが重要文化財指定)など国内外の劇映画、ニュース映画、フィルムで撮影されたテレビドラマなど約8万7千本(今年3月時点)。平成28年時点の調査では、明治43年~平成27年公開の日本映画約3万7千本のうち、18・1%を収蔵している。

保存するフィルムには、1950年ごろまで世界で使われていた発火しやすく危険なものや、酢酸を出して劣化するものが含まれる。このため、気温5~10度程度の低温低湿度の環境で厳重に保管されている。

「選ばずに残す」

収蔵作品の多くは、映画会社や個人から寄贈される。年間、数百~5、6千本が届くという。

受け入れの選定基準はない。大沢さんは「作品の価値は人や時代で変わる。無名の個人が撮ったものでも、100年後にはそこに写った風景や人の記憶に価値が生まれる可能性がある」と説明する。

「映画は、火災などの災害や政変で簡単に消えたり廃棄されたりする。歴史を記録した貴重な文化遺産を誰かが残そうと意識しないといけない。われわれには責任があると思います」

デジタル化による新たな危機

日本では平成22年ごろ、映画の撮影から上映までフィルムを一切使わない完全デジタル化が進んだ。劣化せずにコピーでき、場所を取らないデジタルデータは、映画の保存に適しているとはいえる。

しかし、事態はそう簡単ではない。適正な温度・湿度なら100年以上保存できることが実証されているフィルムに比べ、デジタルデータは脆弱で、消えてしまうリスクがある。

大沢さんは「それを防ぐためにコピーをいくつも作って、違う場所に保管して…と手間と費用が非常に掛かる。また、機材やデータ形式が日々進化するので、将来、再生できなくなる危険がある」と指摘する。

NFAJでは22年以降に製作された日本映画をほぼ収蔵していない。デジタルデータの受け入れ体制がないことが理由だ。

東宝、東映など映画大手4社で作る社団法人「日本映画製作者連盟」(映連)によると、4社ではデータをLTO(リニア・テープ・オープン)という磁気テープで保存し、各社の倉庫などで保管。堀口慎事務局次長は「製作時にデータの管理費用を含んだ契約書を交わす例も出てきている」と話す。

問題は、小規模な製作会社や個人が作った映画作品だ。資本に余裕がなく、データが消えたり、記録媒体ごと散逸したりする危険性を指摘する声がある。

NFAJでは現在、デジタルデータ受け入れについて検討を始めている。大沢さんは「フィルムと違い、デジタルデータは一度なくなると探し出すのが難しい。映画はまずは作り手が守るしかない時代。どうか守ってほしい」と訴えている。(岡本耕治)

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