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鈍麻する感覚、刺激求め常習万引 当事者が語るオーバードーズ 「睡眠薬15錠ボリボリ」

産経ニュース / 2024年10月2日 20時5分

風邪薬などの市販薬や睡眠薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)に走る若者が後を絶たない。「気分転換」「いやなことを忘れたい」と精神や感覚への作用を求めて薬に手を出し、抜け出せなくなる。大阪では女子高生をODで死亡させたとして、自宅に連れ込んだ無職男(26)が逮捕される事件も。OD経験者はその依存性の強さと身体へのダメージに警鐘を鳴らす。

「常に脳が麻痺(まひ)し、正常な判断ができなくなる。まるでもう一人の自分がいるかのように行動していた」

睡眠薬のODを繰り返していた当時のことを、湯浅静香さん(44)=さいたま市=はそう振り返った。初めて口にしたのは18歳のとき。キャバクラ勤務を始め、昼夜逆転の生活で眠れない日が続いていた。

あくまで眠ることを目的に、はじめは定量の1錠だけ。だが次第に効かなくなり、1回の服用数が4~6錠に増えた。「もっと欲しい」。いつしか目的と手段が入れ替わり、薬そのものを求めるようになっていた。

恐ろしいのはその依存性だ。覚醒剤使用の経験もある湯浅さんは「覚醒剤と変わらない」と言い切る。ただ覚醒剤のような法禁物とは違い、入手が容易な睡眠薬では罪悪感を抱きにくい。摂取量は増える一方で「当時はその怖さが分かっていなかった」。

ODが常態化するにつれ、身体に異常が現れる。味覚が変化し、苦いはずの錠剤を甘く感じた。お菓子を食べる感覚で「15錠ほどの睡眠薬をボリボリとむさぼった」と話す。

脳の働きは鈍り、判断能力が低下した。記憶が寸断され、痛みを感じなくなって自傷行為を繰り返したことも。結婚生活にも張り合いを感じられず、常に鈍麻したような意識の中で、万引に刺激を見いだすようになる。その果てに窃盗で捕まり服役することになった。

刑務所で社会復帰した元受刑者の講話を聞いて感銘を受け、更生を誓った。ODから抜け出し出所後、薬物依存者やその家族を支援する「碧(あお)の森」を立ち上げ、代表として活動している。

ODを続けたせいで感覚が鈍り、自殺を図る若者も少なくない。ODが性被害に遭う入り口になったり、あるいは薬物犯罪に加担させられたりと、摂取とは別のリスクも潜んでいる。

「ODそのものは覚醒剤とは違い、犯罪ではないかもしれない。だが、安易な気持ちで始めたODによって、百八十度狂った人生になる」

当事者だったからこそ身近にある薬の落とし穴がよく分かる。湯浅さんは自分の半生を赤裸々に語り、その怖さを伝えている。(木下倫太朗)

依存症薬物のトップ、規制強化を議論

感冒薬、鎮痛剤、抗アレルギー薬、せき止め薬…。オーバードーズ(OD)目的で使用されたことがある市販薬の調査結果を見ると、だれもが一度は聞いたことがあるような有名な製品名がずらりと並ぶ。

厚生労働省と総務省消防庁の調査によると、医薬品のODが原因と疑われる昨年1~6月の救急搬送者5625人のうち、10~20代が2588人と半数近くを占め、年々増加傾向という。

全国の精神医療施設で依存症治療を受けた10代患者の調査では、摂取していた薬物のトップが平成26年時点では「危険ドラッグ」で48・0%だったが、28年には市販薬が逆転。令和2年にはその割合が過半数の56・4%にまで増加している。

厚労省は、こうした薬に含まれるエフェドリンやコデインなどの6成分を「濫用(らんよう)の恐れのある医薬品」に指定。販売は原則一人につき1個とし、複数購入の希望者には理由を確認した上で、購入者が若年の場合には名前や年齢確認を求めているが、店舗によっては徹底されていない。

厚労省審議会では今年2月から規制強化を議論。20歳未満に販売する場合は小容量製品1個に制限するなどの案が出ており、年内にも内容をとりまとめ、医薬品医療機器法の改正を目指す。(鈴木源也)

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