相次ぐ郵便局員の過労死 遺族らが家族会発足「健康で働けることを当たり前に」
産経ニュース / 2024年11月18日 11時0分
過酷な勤務の末に命を絶った郵便局員の遺族や支援者らが、過労死などを出さない職場環境の実現を目指して「郵便局過労死家族とその仲間たち(郵便局員過労死家族会)」を発足させた。平成19年の郵政民営化以降、ノルマなどに追われる郵便局員の自死や突然死といった事案が今も相次いでいることから、同じ境遇の人々と支え合い、声を上げられない被害者や遺族が補償などを得られるよう支援に取り組むという。
無念の死
「私と同じ思いをする人が出てほしくない。どの仕事でも健康で働けることが当たり前の社会になってほしい」
今年9月に都内で開かれた家族会の発足をアピールする会見で、夫を〝過労自死〟で亡くした同会共同代表の小林明美さん(57)は、こう訴えた。
「小林君が転落した。すぐに病院に行ってほしい」。平成22年12月8日朝。夫の孝司さん=当時(51)=が勤務していた、さいたま新都心郵便局(さいたま市)の局長から、明美さんに電話があった。
突然の連絡に動揺する中、「配達中にけがをして病院に運ばれたんだ。大けがであっても生きている」。無事を願い、急いで病院に駆け付けた。だが間もなく、夫が死亡したと告げられた。
孝司さんは昭和57年から約23年間、さいたま市内の岩槻郵便局に勤務。平成18年にさいたま新都心郵便局に異動し配達や年賀状の営業などを担当したが、大規模郵便局で過酷な業務が続き、20年に鬱病を発症。病気休暇と復職を繰り返していた。
復職から半年。いつも通り明美さんが郵便局まで車で送り届けた後、孝司さんは、勤務時間中に郵便局の4階から飛び降りた。
過酷なノルマ
明美さんによると、郵政民営化以降、全国の大規模な郵便局を中心に利益追求が重視されたこともあり、当時のさいたま新都心郵便局は「厳しい職場だ」と関係者の間で噂になっていた。異動になる前、孝司さんは「絶対に行きたくないところだ」と話していたという。
年賀状販売は1人最大9千枚のノルマが達成できなければ、自分で買い取る「自爆営業」が常態化。仕事でミスをすれば「お立ち台」と呼ばれる台に立たされ、多くの職員の前で上司から叱責を受けるという環境だった。
明美さんは、会社が異動などの対策を取らなかったことは安全配慮義務違反に当たるなどとして25年、さいたま地裁に提訴。28年に日本郵便が解決金を支払うなど和解に至った。
令和2年には、達成困難なノルマが課されるなどし業務上のストレスで発症した鬱病が原因で自殺に至った-と労災が認定された。
声上げられず
家族会によると、全国で発生した郵便局員の突然死・自死は平成12年以降で少なくとも計25件。今年だけで4件の突然死などがあった。うち3件はいずれも新東京郵便局(東京都江東区)で深夜勤務の非正規社員が死亡した事例で、亡くなった局員らは10~20年以上、深夜勤務を続けていたという。
夫の死から間もなく14年。今も郵便局員の自死や突然死がなくならない現状に、明美さんらは他の遺族らとともに、今年7月に家族会を発足。共同代表には、同僚からのいじめやパワハラ、退職強要が原因で令和元年に自死した札幌市の豊平郵便局員だった男性の遺族も名を連ねる。
同会は今後、過労死撲滅を目指し、相談窓口を通じた被害の予防に取り組むほか、日本郵政グループ各社に対し、過労死、過労自死、精神疾患を起こさないための取り組みを求める。
家族会事務局長の倉林浩さん(68)は「大半の被害者や遺族は声を上げられず沈黙している」と指摘。活動を通じ、「過労死のない社会を目指す」と語った。(村田幸子)
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