見た目で分からず、周囲に言い出せず 声出しづらい「痙攣性発声障害」、当事者の苦悩
産経ニュース / 2024年7月23日 8時0分
声を出そうとする際、自分の意志に反して声がかすれたり詰まったりする「痙攣(けいれん)性発声障害」という病気がある。はっきりとした原因は不明で、完治は難しい。周囲に打ち明けられず、悩みを抱えたまま生活を余儀なくされるケースもあるなど、当事者の苦悩は深い。
アルバイトで苦情も
東京都在住の伊藤遥香さん(23)は、短大2年のときに痙攣性発声障害の診断を受けた。違和感を感じたのは高校1年の冬。所属していたバドミントン部の練習で大声を出すと、声が詰まるようになった。
次第に、人前で発表したり、騒がしい休み時間にクラスメイトと話したりする際にも声が出しづらくなっていった。自宅で親と会話する時や友人と遊んでいる時には問題はなかったため「人間関係のストレスかな」と思っていたが、徐々に静かな環境でも声が出しづらいと感じるようになっていったという。
部活を引退後に始めた飲食店のアルバイトでは、自分では精一杯声を出しているつもりでも会計時に「声が小さい」と客に言われたり、名指しで苦情が店に入ったりすることも。「本当につらかった」と振り返る。
短大進学後、就職を考えた際も、声を使わない仕事はほとんどなく「できる仕事は少ない、と感じた」。このころ、インターネット上で自分と似た症例があることを知り、病院へ。「診断を受け、病名がついてほっとした」が、状況は変わらなかった。
喉のマッサージや発声方法の練習、心理士との面談でストレスの低減を図ったが、めぼしい効果はなかった。目指していた保育士になる夢も、歌ったり子供たちと接する際に声を使うことが多いと考え、あきらめざるを得なかった。
限られた人にしか
痙攣性発声障害で一般的とされる治療法は、声帯筋に筋弛緩作用のある「ボトックス注射」を打ち、声帯を閉じさせないようにして声を出しやすくする方法。ただ、効果が持続するのは3か月程度で、1本当たり1万5000円~2万円程度の注射を打ち続ける必要がある。
伊藤さんも6回ほど注射を打ったが、一生注射を打ち続ける心理的・経済的負担から、2年前に声帯筋の一部を切除する手術に踏み切った。
手術をすると、大きな声が出しづらくなったり音域が狭まったりする副作用が出る場合もあるが、伊藤さんの場合、術後はアルバイトでも声を気にすることが減り「接客が楽しいと思えるようになった」。それでも日によって調子が異なり、声が出しづらくなることもあるという。
伊藤さんは自身の病気について、家族やアルバイト先の店長など、限られた人にしか打ち明けてこなかった。友人から声について聞かれても「風邪気味」と答えてきたという。
「目が見えない人、耳が聞こえない人もいるように、(病気で)声が出ない人もいることを知ってほしい」と語る伊藤さん。声が出ないと、より緊張して声を出しづらくなることもあるといい「『ゆっくりで大丈夫』などと声をかけてほしい」と訴えた。
患者少数、若い女性多く
声の病気を専門としてする新宿ボイスクリニック院長の渡嘉敷亮二医師によると、痙攣性発声障害は神経の異常で自分の意志に反し筋肉が動いてしまう「ジストニア」という病気が関連しているとされるが、明確な発症理由はわかっていない。
言葉を発する際に同じ文字を繰り返したり、言葉を出せず間が空いてしまう吃音(きつおん)とは異なる。特に「おはようございます」「いらっしゃいませ」などといった挨拶や、日常でよく使う言葉を発する際に症状が出やすいという。
緊張がきっかけで発症する可能性があり、渡嘉敷医師は「声が出ないという『失敗経験』によって不安が増幅し、治りにくくなっているケースもある」と指摘する。
痙攣性発声障害の国内患者は全国で推定約2千人。患者は20代の女性が一番多く、10代も珍しくない。耳鼻咽喉科を訪れても、声帯に異常がないことに加えて病気自体の認知度の低さもあり診断が下りず、症状が重い場合は「精神的な理由」とされることも珍しくないという。
リハビリでの改善は難しく、ボトックス注射や声帯の一部除去手術、声質を安定させるため声帯にチタンを取り付ける手術を選ぶケースが多い。渡嘉敷医師は「声が出ないことは人間として自己表現ができないことにつながり、社会参加の機会を奪われかねない」と、周囲の理解の必要性を訴える。(梶原龍)
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