学園職員しながらノンフィクションを発表 玉居子精宏さんの二刀流 100歳時代の歩き方 私の後半戦
産経ニュース / 2024年11月24日 9時0分
学園職員を務めながら、戦争に関する話題のノンフィクションを発表してきた。「『二足のわらじ』と思ったことはない。やりたいことをやってきたら自然とこうなった」。知的刺激を受ける仕事をしながら、自分なりの表現テーマを追う。50代を迎えての後半戦も、この〝並行〟スタイルを続けていくつもりだ。(聞き手 小川記代子)
学園の広報課で月刊の学園広報誌の編集や広報活動を担っています。広報誌は自分で言うのも何ですが、特集やインタビューなど、充実した内容です。ノンフィクションの取材や執筆は、仕事が休みの日やプライベートな時間を使っています。
《肩書は、大学から幼稚園まである玉川学園(東京都町田市)広報課の課長補佐。正式な職員だ。ノンフィクション作家としても、昨年出版した『忘れられたBC級戦犯 ランソン事件秘録』が各紙の書評に取り上げられた》
ベトナムに渡り
迷うことの多かった高校時代に人間の苦しみや懊悩(おうのう)を描く小説にひかれ、20代は小説家を目指していました。大学卒業後はミステリーなどで知られる早川書房に就職。科学ノンフィクションを担当しながらも小説家の夢はあきらめていませんでした。4年で辞めてベトナムに渡りました。
《ベトナム行きは小説の題材探しという目的もあった》
ホーチミン(旧サイゴン)には戦時中、南方進出の助けとなる日本人の若者を教育する「南洋学院」という国の学校があった。ベトナム反戦運動だけでなく、日本とベトナムは縦の歴史で結びついている点に感慨を覚えました。南洋学院を調べたり、アジア独立を唱えた大川周明について、彼の弟子で戦中、ベトナムに住んでいた人に話を聞いたりしました。ベトナムでは、日本人が経営する会社で現地紙を翻訳し、企業に提供する仕事にも就きました。
《日越のかかわりをノンフィクションの形で出版社のサイトに発表。2年住んで帰国した。雑誌に掲載したものを基に平成24年、最初の本『大川周明 アジア独立の夢』を出版した》
帰国後は編集プロダクションやアジアのビジネスニュースを配信する会社などで働きながら、取材・執筆を続けていました。ノンフィクションにしたのは、ベトナムでの取材を形にしたかったし、ノンフィクション作家、保阪正康さんの作品に多大な影響を受けたためです。仕事と並行するため、早朝、出勤前に会社の近くの喫茶店で書いたこともあります。「死んだときに名前が残るものがほしい」と思っていたので、出版はとてもうれしかったですね。
編集経験生かし
《10年前に学園職員になった》
編集の経験を生かせるのと、しっかりした組織で働きたかったからです。ノンフィクションは丁寧に築き上げた人間関係を基に作り上げていく。組織で仕事をするのでも、丁寧な人間関係を基にやりたかった。この学園の広報誌はしっかりした作りで、自分に合っていると感じ、このような所で働きたいと思いました。
《学園職員としての仕事は楽しいという》
学園の教員に取材したり、研究者や専門家にインタビューしたりすることが、こんなに知的でおもしろいとは知りませんでした。早川書房の編集者のときは、自分がまだ何も書いていない劣等感があって、積極的に原稿を依頼することができませんでした。今は自分も少しは書く経験を積んで心に余裕ができたのか、いろいろな人に原稿をお願いできるようになりました。自分を凌駕(りょうが)する知識に接するのは、とても刺激になります。
《このスタイルを続けていくつもりだという》
私が敬愛する、従軍経験などを描いた芥川賞作家、古山高麗雄も長く編集者を続けていました。このスタイルだからこそ、私は知的な刺激を受けながら、戦争の時代の個人の生き方を探るといった自身の関心ごとを追求できます。「二足のわらじ」だなんて思っていない。自分にとってはこのスタイルが自然で、必然のことです。次回作の取材にも取り掛かっています。
玉居子精宏
たまいこ・あきひろ 昭和51年、神奈川県生まれ。早大卒業後、早川書房に入社。退職後、戦争があった時代の取材を始め、2年間、ベトナムで暮らす。帰国後は学園職員などをしながら、取材や執筆に取り組む。著書は記事にある2冊のほか『戦争小説家 古山高麗雄伝』。
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