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コロナ11波、感染防止へ飲み薬の処方率上昇 高額負担で敬遠も、割安ゾコーバシェア拡大

産経ニュース / 2024年8月17日 19時26分

塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」

新型コロナウイルスの感染「第11波」で、症状を鎮める飲み薬(経口抗ウイルス薬)の役割が医療機関で見直され、処方率が上昇している。感染の主流とされる変異株「KP・3」はワクチンなどで獲得した免疫が効きにくいとされ、感染を広げる恐れのある、せきなどの症状を抑える飲み薬は感染防止に有効。ただ、高額な自己負担のため使用を敬遠する患者も多く、積極的な処方に向けた課題となっている。

「ここにきて一気に感染が増えている」。大阪市旭区の中浜医院では7月以降、新型コロナの患者数が急増。中浜力院長によると、多いときで1日に約20人と2カ月前の10倍以上という。

全国約5千の医療機関から厚生労働省に報告された新型コロナ新規感染者数は、8月5~11日で4万9208人。1医療機関当たりでは10・48人で、2週連続で減少した。ただ、増加基調に転じる直前の4月29日~5月5日の2・27人に比べると高い水準だ。

第11波の中で飲み薬の処方が増えている。国内の新型コロナ飲み薬は塩野義製薬による国産初の飲み薬「ゾコーバ」、MSDの「ラゲブリオ」、米ファイザーの「パキロビッド」の3種類。

医療従事者向けサイトを運営する「エムスリー」が全国約4100のクリニックなどに調査した診療情報データベース「JAMDAS」によると、患者に対する3剤の処方率は昨年8月は計22・2%だったが、今年4月から公費支援がなくなり、5月1日には7・8%(処方患者数約500人)まで落ち込んだ。翌週から感染者数の増加に伴って回復し始め、8月7日は13・3%(同約2430人)となった。

中浜医院ではゾコーバの希望者が増えているといい、中浜院長は「広い世代で感染が広まっており、周囲にうつしたくないという思いから服用を決める人が多い印象だ。医師が正確に効果や安全性の情報を伝えたうえで、最終的に患者が判断することが重要だ」と話す。

倦怠感(けんたいかん)や集中力の低下など、新型コロナの後遺症についても深刻さが認知されるようになり、飲み薬に期待が高まっていることも考えられる。

特にゾコーバは3剤の中でシェアを伸ばし、3月6日の46・3%から7月3日には69・3%まで拡大した。他の2剤と違い、高齢や基礎疾患などの重症化リスクのない患者にも有効。体内のウイルス量を減らし、早期に投与すれば症状が改善するまでの期間を約1~2日短縮できる。

ゾコーバが相対的に安いことも理由とみられる。コロナ飲み薬の自己負担は3月末まで最大9千円だったが、公費支援終了で、ゾコーバが1万5千円程度、ラゲブリオとパキロビッドは3万円近くの自己負担が必要(3割負担の場合)。検査料なども加わると負担がかなり重くなり、患者が服用をためらう状況は変わっていない。

患者が断ると決め込み、医師が情報提供を怠ることもあるようだ。神戸市の会社員の女性(28)は4月に新型コロナで医療機関を受診。医師は効果などを説明せずに「高いから処方はいいですね」と薬を処方しなかったという。女性は「効果を知っていたら処方を頼んでいた」と振り返る。

一方、塩野義は6月、ゾコーバに重症化リスクがある患者の入院を減らす効果があったとの調査結果を公表。後遺症のリスクを低減させる効果の研究も進めている。同社の手代木功会長兼社長は「ゾコーバが(健康への)重要な投資だと捉えてもらえるようにしたい」と話す。

感染力強い「KP・3」、入院患者が4週間で2倍に

新型コロナウイルスの第11波で流行しているオミクロン型の変異株「KP・3」は、ワクチン接種による免疫効果が弱く、従来の変異株よりも感染力が強いことが特徴だ。専門家によると、1人の感染者から何人に感染が広がるかを示す「実効再生産数」は第10波の「JN・1」の約1・4倍に上る。

厚生労働省によると、全国の1医療機関当たりの新規感染者数は7月22日~28日まで12週連続で増加した。関西も増加し、大阪府では昨年夏のピーク時と同程度の流行となった。

新規入院患者数は7月29日~8月4日で4590人と、4週間前の約2倍までふくらんだ。8月5~11日は4192人に減少。集中治療室(ICU)に入院した患者は183人で人工呼吸器の利用は93人。入院患者は70代以上が3154人と多くを占めるが、幅広い年代に広がっている。

新型コロナは昨年5月に感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類に移行したが、専門家は取材に「後遺症や重症化、死亡にいたるリスクは依然としてあり、軽視する風潮は危険だ」と警鐘を鳴らす。

関西医科大付属病院の宮下修行診療教授(呼吸器・感染症内科)

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行できたのは、ワクチンに加え、(ゾコーバなどの飲み薬を含む)治療薬の登場によるところが大きいだろう。どちらも重要であり、なければ重症化する患者や、後遺症が出る患者はもっといたはずだ。

ゾコーバの大きなポイントは(塩野義製薬が公表した調査結果によると)重症化や後遺症の予防が期待でき、体内のウイルス量を減らし、周囲への感染拡大を抑える点にある。会社や学校、病院などの集団生活で人に感染を広げない利点が広く知られるべきだろう。

一方で1万5千円以上の価格は高いと感じる人が多く、処方をあきらめざるを得ない事例がある。受診控えなどを引き起こし、感染拡大につながる懸念もあるため、公費支援の継続はまだ必要だったのではないか。

ただ、診療する医師が治療薬の効果を一切説明せずに、患者に処方を提案しないのは問題だ。特に高齢者にとって新型コロナはインフルエンザよりも予後の悪い感染症であり、正確な情報提供が求められる。(聞き手・清水更沙)

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