脳を知る 競技中の脳振盪 すぐに受診し安静保つ
産経ニュース / 2024年12月30日 11時0分
パリ五輪で女子バスケットボール日本代表の主力メンバーが予選リーグ初戦で頭部打撲を負い、脳振盪(のうしんとう)の診断で残りの試合を欠場しました。「たかが脳振盪で大切な試合に出ることができなくなるの?」と不思議に思われるかもしれません。脳振盪はレントゲンやMRIでは異常がないことが多く安易に見過ごされがちで、そのために後遺症が出たり、場合により死亡する可能性のある危険な状態です。脳振盪は老若男女問わず、歩行中に転んだり、柱に頭をぶつけるだけでも起こる可能性があります。
脳振盪は頭部打撲による衝撃で脳が揺さぶられることで生じます。脳が揺さぶられると脳の軸索という神経線維がねじれてしまい脳の働きが一時的に鈍る、いわば脳が停電するような状態になります。脳振盪は身体的な症状として、頭や首の痛み、頭が痛い、吐き気がある、ぼんやりする、めまいやふらつきがある、光や音に敏感になる、などが生じます。加えて精神的な症状として、イライラする、疲れやすい、気分が落ち込む、眠れないなどが生じます。
最近は中学や高校、大学のスポーツ競技中の脳振盪について指導者や保護者でもわかりやすい観察項目が推奨されています。①一瞬の意識消失②倒れて動かない③ぼんやりして受け答えが遅い④ふらふらしている⑤動きが遅い⑥混乱している⑦受傷した前後の記憶が思い出せない-などです。脳振盪を負った選手は「大丈夫です」と応答しがちですが、先ほど紹介した脳振盪の観察項目が1つでもあれば、その選手を直ちに競技から外し、決して競技に戻してはいけません。
指導者や保護者が脳振盪の重症度を判断するのは非常に危険です。すぐに脳神経外科を受診し、脳振盪になったときの状況や現在までの症状の経過を脳神経外科医師に伝え、診察してもらいましょう。多くは入院など不要で帰宅は可能ですが、帰宅後も安静を保つようにします。選手には、現在たとえ症状が軽くても後で症状が重くなる可能性があること、数週間安静にすれば必ず回復し競技に復帰できることを説明します。脳振盪からの復帰は体調の変化に注意しつつ段階的に進め、2~3週間を目安に復帰を計画します。
脳振盪を負った後、回復しないうちに競技を行い再び脳振盪になるような衝撃が脳に加わると、セカンドインパクトシンドロームという、脳が腫れ死に至る可能性が極めて高い病態に陥ります。これが脳振盪後の競技復帰を控える最大の理由です。今回スポーツを主とした脳震盪を紹介しましたが、脳震盪は日常生活どんなときでも生じえます。「頭部打撲は軽くみてはいけない」と考えるようにしてください。
(公立那賀病院副院長 脳神経外科 藤田浩二)
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