病児見守る親に笑顔を 亡き娘思い10年「キープ・ママ・スマイリング」光原ゆき理事長 TOKYOまち・ひと物語
産経ニュース / 2024年10月7日 20時59分
子の入院に泊まりがけで付き添う親の生活環境を想像したことがあるだろうか。自分の健康管理に気を配る余裕もなく見守りを続け、体調を崩す人も少なくない。認定NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京都中央区)の光原ゆき理事長(50)も、孤軍奮闘した一人だった。亡くなった娘を思い、活動を始めたのは約10年前。以来、病児を見守る親たちに笑顔を届けてきた。
妊娠を知ったのは、医療情報サイトの編集長を任されていた35歳の頃。もともと仕事人間で、出産後もすぐ復職し、ばりばり働くつもりでいた。
だが、長女は生まれて間もなく、新生児集中治療室のある病院に搬送された。先天性の疾患が判明し、生後5日目で8時間に及ぶ手術を受けた。個室に移れたのは数日後の大みそか。母子2人の年越し。長い付き添い生活の始まりだった。
付き添いの現実
小児病棟では忙しい看護師に代わり、子供の世話の多くを親が担っていた。光原さんも、産後ケアが必要な身でありながら、温めたミルクをチューブを介して鼻に注入したり、オムツ替えごとに排泄量を記録したりと世話に追われた。
長女が眠っている間にコンビニに急ぎ、おにぎりやカップラーメンなど3食分を買い込む。夜には長女の横に狭く硬い簡易ベッドを置き、眠った。
別の疾患を併発して転院した先でも付き添いを続けたが、疲労の蓄積からか、熱が出て、自宅で療養することに。1週間ほどして病院に戻ると、長女は一回り小さくなっていた。脱水が見逃され、体重が落ちていたのだ。病院側から謝罪されたものの、「私は倒れてはいけない」と思った。
付き添いを始めて約半年。退院を果たした。
再び奮闘の日々
復職し、長女も元気に保育園に通っていた頃、次女を授かった。ところが、次女も、重い病気を抱えて生まれてきた。
完全看護の態勢をとる病院からは、付き添いは不要とされたが、忙しく動きまわる看護師たち。新生児らが泣いてもすぐに駆け寄ってあげられないこともあるなど、手が足りていない場面を目にすることもあった。
個室を借りれば付き添いが可能と知り、再び始まった奮闘の日々。だが次女は1歳目前で、自分のもとを去っていった。
1カ月泣きはらし、娘が生まれてきた意味を問い続けた。「彼女がいたから分かったことで私が役に立てれば、次女が生まれてきてくれた証になる」。平成26年秋、NPOを設立した。
弁当配布に缶詰
病児に付き添う家族が利用できる施設で料理ボランティアを始め、やがて、病院の親たちに弁当を作って届けるようにもなった。
30年末からはNPOの活動に専念。弁当配布の打診に難色を示す病院もあり、それならばと、一流シェフを巻き込んで缶詰など保存食を開発した。企業に支援を募り、寄付してもらった日用品などとともに「付き添い生活応援パック」として病室に届ける事業にも乗り出した。
これまでに同パックの送付は8千個を超え、全国の親たちから「心を支えられた」「頑張ろうと思えた」といった喜びの声が届く。
付き添い環境の改善に向け、ロビー活動も展開。令和6年度の診療報酬改定では、入院した子供を見守る保育士らを手厚く配置した医療機関への加算が示されるなど、国も対策に動き始めた。
「子供が元気になっていくために、親たちには健康で、そして笑顔であってほしい」。願いとともに歩みを進めている。(三宅陽子)
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