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脳を知る 認知症と正常の間の状態「軽度認知障害」

産経ニュース / 2025年1月16日 6時0分

「電話で言っておいた約束を忘れていたり、何回も同じ話をはじめて言うように話したりするんです」

80代の女性が、娘さんに付き添われ私の物忘れ外来を受診されました。本人も「今年になってから、朝何をしてたか忘れたり、薬をのんだのを忘れたりするんです。でもじっくり考えたら思い出すんですけどね。最近は、娘や友達に物忘れを指摘されて、受診することにしたんです」とおっしゃいました。物忘れを調べる検査では30点満点中24点と、合格の境界の点数で、脳MRIではわずかに脳の萎縮を認める程度でした。

私は、検査の結果から認知症の手前の「軽度認知障害」と診断しました。新しい治療薬(アミロイドβというアルツハイマー病で脳にたまってくる蛋白(たんぱく)を取り除く作用のある薬)が使えることを説明すると、本人は治療を開始したい希望がありました。その治療薬を使うためには、まずはアミロイドβがたまっているか調べる検査をしないといけないのですが、「注射や痛みには慣れてますよ。出産の痛みも我慢できたんですから」と、こころよく髄液検査(腰から針をついて、髄液をとる検査)をしてくれました。

新しい治療薬は、2週間に1回の点滴治療ですが、何回か通ってくれたあとに、朝起きてきてその日の約束ごとを思い出せるようになってきましたと家族の方が言ってくれました。本人は私に「どこになおしたか忘れていたへそくりの場所を思い出して、へそくりが出てきたんです!」とすごくよろこんで話してくれました。

軽度認知障害は、英語で頭文字をとってMCIとも言われ、認知症と正常の間の状態のことを言います。通常は1年間で、約5~15%の人が認知症に進行するということが分かってきました。原因としては、アルツハイマー病によるものが最も多いですが、レビー小体型、脳血管性や前頭側頭型などの認知症による場合もあります。

今までは治療薬はありませんでしたが、最近、アルツハイマー病で蓄積するアミロイドβを除去していく新しい薬が使えるようになりました。これだけ医療が発達してもまだ完全になおす薬ではありませんが、病気の進行を遅らせて、少しでも今の生活を維持することができます。

その薬を使うためには、アミロイドβが蓄積しているか調べる特殊な検査(アミロイドPET検査か、髄液検査)が必要です。検査でアミロイドβの蓄積が証明できれば、新薬を使うことができるのです。2週間に1回の点滴治療ですが、最近になって4週間に1回の新しい薬も発売されています。物忘れで少しでも心配になれば、専門の医療機関に相談してみてください。

(橋本市民病院脳神経外科部長 大饗義仁)

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