激減「水ぼうそう」ワクチン普及で劇的変化、感染者は帯状疱疹リスク持ち続けることに…
産経ニュース / 2024年11月14日 22時10分
子供が罹患(りかん)しやすい感染症の一つである「水痘(水ぼうそう)」のワクチン定期接種が始まってから10年が経過した。感染力が強く、かつては「子供は必ずかかる」との認識もあったが、定期接種によって患者数は激減。定期化前は年間約100万人と推計されていたが、数万人にまで減ったとみられる。同じウイルスが引き起こす帯状疱疹(たいじょうほうしん)の抑制にもつながるといい、専門家は「幼少期の接種をしっかり続けていくことが大切だ」と話している。
水痘は発熱のほか、かさぶたとなる発疹を生じる感染症。新型コロナウイルスや季節性インフルエンザと同じく感染症法上の5類に位置づけられている。冬から春にかけて流行し、空気や飛沫(ひまつ)で感染が拡大。1~4歳の患者が多く、90%以上の人が10歳までの間に発症するとされる。
重症化するケースもあり、効果的な予防策が求められる中、大阪大学微生物病研究所(大阪府吹田市)の高橋理明(みちあき)氏が水痘ワクチンを開発。国内では昭和61年から、1歳以上を対象とした任意接種が始まったが、高額な接種費用などがネックとなり、接種率は低調なまま推移した。
定期接種が開始されたのは平成26年10月。生後12カ月から生後36カ月までの幼児を対象に、2回の接種を公費負担で行うようになったことで接種率が上がり、それに伴って感染者数も減少した。
国立感染症研究所によると、水痘患者は全国で指定された約3千の小児科医院からの「定点報告」で把握している。定期化前は15万~25万人で推移しており、実患者数は100万人ほどと推計されていた。
しかし、27年には定点報告の患者数は約7万7千人と激減。以降も減少傾向は続き、令和4年には約1万2千人となった。
近畿大の大塚篤司教授(皮膚科学)は、「ウイルスの感染力の強さからすると、ワクチンを打たなければ、ほぼ全員が感染すると言ってもよい」と指摘。
重症化すれば子供に後遺症が出ることもあるため、「幼少期にきちんとワクチンを打つことが発症を抑えることにつながるため重要だ」と話している。
年重ねると免疫低下 定期接種で「ブースター効果」得られにくく
水ぶくれや発疹が体の片側に広がり、かゆみや痛みを伴う帯状疱疹は水痘と同じウイルスによって起こる。水痘ワクチンの定期接種は、将来的な帯状疱疹患者の減少にもつながると期待されるが、現段階では発症リスクが増す世代もあるとされ、注意が必要だという。
水痘にかかると、症状がなくなった後もウイルスは体内に潜伏し続ける。普段は免疫で活動を押さえ込んでいるが、免疫低下によって再活性化を許すと、帯状疱疹を発症する。
このため、幼少期にワクチンを接種し、水痘に感染しなければ、帯状疱疹を発症することはない。近畿大の大塚篤司教授によると、水痘ワクチンを打った子供たちが大人になっていけば、帯状疱疹患者も減っていくといわれている。
ただ、現在は、ワクチンを接種している世代と、幼少期に多くが水痘に感染した世代が混在していることから、帯状疱疹患者が増える懸念もある。
水痘や帯状疱疹を引き起こすウイルスに対抗する免疫は、年を重ねるとともに低下する。従来は子供が発症した水痘ウイルスを親が体内に取り込むことで、免疫を活性化する「ブースター効果」が得られ、帯状疱疹の発症を抑制していた。
ところが、ワクチンの定期接種によって子供が水痘にかからなくなると、ブースター効果を得る機会がなくなるというわけだ。近年は帯状疱疹の若年化が進み、20代から40代の子育て世代で増加しているとされる。
帯状疱疹予防のワクチンは50歳以上を対象に任意接種が行われており、定期化も検討されている。大塚教授は「接種費用を補助してくれる自治体もあるので、大人でもワクチン接種で予防していくことが重要だ」としている。(小川恵理子)
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