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モノに残された辺境の営み 『藍を継ぐ海』 <聞きたい。>伊与原新さん(作家)

産経ニュース / 2024年10月6日 10時20分

『藍を継ぐ海』伊与原新著(新潮社・1760円)

かつて萩焼に不可欠な赤い粘土が採掘されていた山口の離島や、産卵に訪れるアカウミガメの頭数調査が行われてきた徳島の海岸。5編の短編小説からなる本書は、いずれも人間の営みの記憶が薄れつつある辺境が舞台だ。

「細々と受け継がれてきたものや、継承が途切れそうになっているものを際立たせた、地方小説の短編集にしようと執筆中に決めました」

自身は地球惑星科学専攻で博士課程を修了した根っからの学究肌だが、今回の物語の主人公には「科学オンチ」も登場する。科学を知らない人たちが、石や土といった身近なモノを通じて新たな世界を開いていく。

「地球や宇宙と言われると難しく感じるが、石なら大抵の人がイメージできる。でも、そこにいろんな情報があることをほとんどの人は知らない。石ころ一つ、土一つをとっても豊かな世界がある」

広島平和記念資料館の初代館長で地質学者の長岡省吾氏の活動に着想を得た「祈りの破片」では、空き家対策を担当する若手の長崎県長与町職員・小寺が、ある空き家に残されたがれきのコレクションの謎を追う。

表面が溶けたり焦げたりしている岩石や瓦、コンクリート片は、原爆投下間もない長崎の爆心地周辺で収集されたもの。採集地を詳細に記録したフィールドノートを読んだ小寺は、がれきの収集に命をささげた男の人生を見届けようと決意する。

「資料館ができて長岡さんの名前は残っているが、実際に何をしたかは広島の人でも知らない。戦後まだ80年ほどしかたっていないのに、同じ地球科学をやっていた人間として忘れてほしくないなと」

全5編に共通するのは、参考文献の読み込みや関係者へのインタビューなど圧倒的な取材量に裏打ちされた、奥行きのある小説世界だ。「星隕(お)つ駅逓(えきてい)」には、昭和期の北海道の郵便事情といった貴重な証言もふんだんに反映されている。

「小説の中での想像でしかないけれど、モノや記録に残された人々の記憶や思いを翻訳して、代弁するのが僕の役目かな」 (村嶋和樹)

いよはら・しん 作家。昭和47年、大阪府生まれ。平成22年に『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞、31年に『月まで三キロ』で新田次郎文学賞を受賞。『八月の銀の雪』『宙(そら)わたる教室』など著書多数。

『藍を継ぐ海』伊与原新著(新潮社・1760円)

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