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純文学で挑む「転生」パターンからの脱却 『大転生時代』 <聞きたい。>島田雅彦さん(作家)

産経ニュース / 2024年9月29日 10時0分

『大転生時代』島田雅彦著(文芸春秋・2310円)

現実に行き詰まりを感じている若者が不慮の事故で亡くなり、剣と魔法のファンタジー世界へと転生して縦横無尽に活躍する-。「異世界転生」と呼ばれるジャンルの流行が長く続いている。

「ライトノベルやアニメでは、『転生もの』でなければ売れないような時代。だからこそ、純文学でこのテーマに取り組みたくなった」

交際相手の自死を機に異性を避けるようになった横溝時雨は、中学時代に3カ月間だけ同級生だった三浦杜子春と偶然再会する。しかし、杜子春は「子どもの国」から転生してきたクービンという人格が寄生していると主張。時雨は妄想や二重人格の類いと受け止めつつ交際する道を選ぶが、ある日突然、杜子春が失踪してしまう。残されていたのは「もう一度、転生する」というメッセージだった。

「純文学がよって立つのは、ちゃんと他者と向き合って試練がある成長の物語。パターン化したご都合主義ではない設定で書いてみようと」

本作での転生は、いわば一方通行の「意識の転生」だ。杜子春の日記を手掛かりに「転生者支援センター」にたどり着いた時雨は、紀元前に滅亡した古代エトルリアの言葉を話す少女の世話を焼くようになり、ある人物の意識が時空を超越して他者の肉体に宿る転生を受け入れていく。

「現代は『かけがえのない自分』といったアイデンティティー神話が根強い一方で、教育や訓練によって社会生活に有利な『自分』を作ろうという傾向が強い。そこで不適応を起こす人々に注目した」

思春期や老化、あるいは対人関係の不和などで、それまで自分に抱いていたイメージに違和感を持つことは誰にでも起こり得る。「他者の意識が自分の中に入った『転生』だと考えてみると、うまく違和感を説明できるかなと」

日常的にSNS上で交わされる借り物のような言説にも「転生」を感じることが多いという。「本当は一心同体ならぬ『二心同体』こそ、もともとの人間の精神のあり方に近いのでは。無理にひとつの人格に統一しようとせず、折り合いを目指すべきじゃないか」(村嶋和樹)

しまだ・まさひこ 作家、法政大教授。昭和36年、東京都生まれ。58年に『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。平成4年に『彼岸先生』で泉鏡花文学賞、令和2年に『君が異端だった頃』で読売文学賞を受賞。

『大転生時代』島田雅彦著(文芸春秋・2310円)

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