この秋、文学史が身近に 「編集・編集者」テーマ展覧会、日本近代文学館と前橋文学館で
産経ニュース / 2024年11月6日 7時30分
この秋、文芸誌の編集、編集者にスポットをあてた展覧会が、日本近代文学館(東京都目黒区)と前橋文学館(前橋市)で開催されている。作家と編集者の共同作業、時代を映す編集の歴史を知り、文学史を身近に感じることができる。
「作家と編集者のやり取りの積み重ねが文学史である」。日本近代文学館の秋季特別展「編集者かく戦へり」(11月23日まで)の編集を担当した武藤康史同館理事はこう評する。
同館に寄贈された作家や編集者の書簡など資料118点を出展。「原稿依頼」や、執筆の遅延・督促などの「つばぜり合い」「作品が世に出るまで」などのテーマ別に展示されている。
書簡でもっとも古いのは明治28(1895)年、博文館の大橋乙羽が樋口一葉に短編を依頼した手紙。面識がなく、低姿勢で原稿料の安さも示唆しているが、これを機に一葉は博文館の雑誌に「ゆく雲」「にごりえ」などを載せる。
「中央公論」の滝田樗陰(ちょいん)は明治・大正期に多くの作家を発掘・育成した。その一人、宇野千代からの封書には、宇野の小説「或る女の生活」が採用された感激がつづられている。ほかに作家の菊池寛が編集者となった「文芸春秋」の誕生前夜の動きがわかる資料も。
戦後の編集者では、坂本一亀(「文芸」、音楽家・坂本龍一の父)、橋中雄二(「群像」)、坂本忠雄(「新潮」)らが登場。坂本一亀が担当した三島由紀夫からの「仮面の告白」起筆宣言の封書も目を引く。また、坂本が原稿書き直しを督促した水上勉から届いた「助けて下さい」の手紙をはじめ、大作家と編集者のつばぜり合いがうかがえる書簡も多く、興味深い。
作品が世に出るまでの例では、中上健次の芥川賞受賞作「岬」で、「文学界」の高橋一清さんが中上に繰り返し要求した手直しの軌跡がわかるゲラなどから二人三脚ぶりが伝わる。「百年にわたる文学史のバックヤード」(武藤理事)が堪能できる展覧会だ。
◇
前橋文学館の「現在(いま)を編集する」(1月26日まで)は、明治37年創刊以来の刊行号数(今年11月号で1438号)で世界最多の文芸誌「新潮」(新潮社)の創刊120周年記念展。
同誌の協力で、目次を模して作られた展示案内、700冊以上のバックナンバー、120周年記念特大号収録の年表を転写した特大クロス(布)50枚など会場づくりにもこだわった。
日本や文壇の歩みにも重なる「『新潮』7大事件」のパネル展示からは、当時の状況や空気も伝わる。
創業者、佐藤義亮が孤軍奮闘して日露戦争のさなかに創刊され、表紙に「軍国の文学を見よ」と書かれた創刊号はすぐ売り切れに。関東大震災や、先の大戦での休刊も経て、戦後は坂口安吾「堕落論」、太宰治「斜陽」などがブームに。昭和45年に割腹自殺した三島が当日朝、連載中の「豊饒の海」第4部の最終回を編集者に渡したエピソードなども紹介される。
ゆかりの作家たちのメッセージや、元同誌編集者の風元正さんによる文芸誌編集のQ&A、同誌に掲載され、今年芥川賞を受賞した九段理江さんの「東京都同情塔」の編集過程を語った杉山達哉編集長のインタビュー全文、九段さんとのメールの一部も展示。12月14日には2人の対談もある。
同館の萩原朔美特別館長は、「雑誌の編集は常に、今という時代はこうだと考えをまとめ、それを文字列表現に翻訳する作業」とした上で、同誌の歴史を踏まえ、「これからのメディアの在り方を考えるきっかけになれば」と展示に込めた思いを語った。(三保谷浩輝)
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