<ビブリオエッセー>「ふるまい」が喚起するもの 「建築と言葉-日常を設計するまなざし」小池昌代/塚本由晴(河出ブックス)
産経ニュース / 2024年6月19日 12時7分
「『実は、この床の下に死体が埋まっているんだよね』ということになったら」と建築家の塚本さんが言えば詩人の小池さんは「死体と建築。言葉ひとつが空間の肌合いを決めてしまう」と応える。ドキッとしたがシャリとネタ、言葉を重ねた高級なすしをいただくような対談だ。
本書のきっかけは2008年、サンパウロで開かれたシンポジウムだ。塚本さんの柔軟で鋭いレクチャーに小池さんが心を動かされ、企画ができたそうだ。話を聞くうちに小池さんは、塚本さんの建築が「『建造物』でなく、まさに『棲家』と呼ぶにふさわしいもの」に見え、塚本さんがしばしば使う「ふるまい」という言葉に心の中であっと声をあげたという。
それは「磁石」のように「日常を覆っている様々な要素」を集め、「ついには一軒の家のような、ある『形』を取り始める」と書く。対して塚本さんは「今、建築は言葉に期待する」と応えた。二人の話は感性が豊かで、化学反応のように新しい発想につながっていく。
「建築は言葉で動き出す」や「人間は風景に支えられる」など印象的な話がいくつもあるが「個人主義の壁」という表現が目に留まった。他者との関係性を語り合うのだが私は学生時代の記憶がよみがえった。二人部屋の学生寮に入ったとき同室者との壁がなかったのだ。一人になれる壁が欲しかった。そこでアパート探しをしたが、隣り合う部屋の境に共同トイレがある部屋へ案内された。音が妄想をかきたて、壁という存在の不可思議さを思ったものだ。
古い建物や都市計画の話から二人は「都市と家の『ふるまい』」を語り、「風景の再生」を考える。そこには建築と時とのふるまいを言い表した言葉があり、対談の妙味を堪能した。
山形県天童市 古間恵一(66)
◇
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