印税を辞退「これ以上閉店が出ないように」 『そんなときは書店にどうぞ』 <聞きたい。>瀬尾まいこさん(作家)
産経ニュース / 2025年1月5日 8時20分
書店員らとの交流を描いたエッセー集。書店が舞台の小説なども収録し、「書店さんに少しでも何かお返しができたらという思いと、これ以上閉店する書店さんが出てきませんようにという願いを込めて作った本」とつづった。
さらに、街の書店を「具体的に応援したい」と印税を全額辞退した。賛同した版元も協力し、書店の取り分が通常は売り上げの20%強のところ本書は50%になっている。
「この本は書店さんが生みだしたもの。(書店に届く額は)わずかで何にもならないかもしれないけど『書店が大変なんだ。じゃあ近くの書店に行こう』と、思ってもらうきっかけになれば」
平成31年、全国の書店員の投票で決まる本屋大賞を、小説『そして、バトンは渡された』で受賞。「それまで中学で教員をしていて自分を作家だと意識したことがなかった。書店さんに作家として自信を持たせてもらった」。パニック障害でつらかった時期でもあり、励みとなった。
受賞後、積極的に書店を回った。どの店も愛情を込めてポップ(本を紹介するカード)を作るなど、想像以上に書店員が本を大切に売っていて「私たちはチーム」と痛感させられた。
「私が書いて出版社がいろんな工夫をして書店さんにバトンが渡って読者に届く。書店さんはアンカー」
減少が続く街の書店は「危急存亡の秋(とき)」にある。書店のためにと、本書の印税辞退を版元の社長に提案すると「印税は作家がいただく当然の対価。作家はいい本を書くのが一番」と諭された。それでも「もうそんな(ことを言っていられる)事態じゃない。自分がいち早くできることをしたい」と説き伏せた。
エッセーに登場している書店のうち3店は既に店をたたんだ。「現在ある書店さんには、もう一つたりともなくなってほしくない」。今年も何らかの形で、厳しい書店界を応援したいという。
社長に言われた「いい本を書く」も忘れていない。4月に出版予定の『ありか』(水鈴社)も自信作だ。「これまでの私の人生を全部込めたと言い切れる小説。今の自分にはこれ以上のものは書けない」。今年が楽しみな作家の一人だ。 (斎藤浩)
瀬尾まいこ
せお・まいこ 作家。昭和49年、大阪府生まれ。令和2年刊『夜明けのすべて』が映画化され、昨年のベルリン国際映画祭正式招待作品に。
■『そんなときは書店にどうぞ』瀬尾まいこ著(水鈴社・1760円)
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