「東京子ども図書館」が設立50年 家庭文庫から続く子供と本の可能性探求
産経ニュース / 2024年8月5日 21時32分
絵本や昔話などの貸し出しや読書の普及活動をしている「東京子ども図書館」(東京都中野区)が今年、設立から50周年を迎えた。個人が自宅を開放して子供たちに本を貸し出したり、読み聞かせたりする「家庭文庫」を母体に発足したユニークな私立図書館は、〝子供と本の世界で働く大人〟のための活動を長年、牽引してきた。デジタル化など子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中でも、読書がもたらす可能性を提示し続けている。
「家」の温かさ
都営大江戸線新江古田駅から徒歩約10分。子供たちの声が響く公園を通り過ぎると、住宅街に赤茶色のレンガ造りの建物が見えてくる。平成9年にマンションの一角から独立し、「新館」として建設された今の図書館は、バージニア・リー・バートンの絵本「ちいさいおうち」を参考に、「長持ちして、年とともに味わいのある建物になるように」設計されたという。
木枠のガラス戸を開けて一歩、足を踏み入れると、心地よい「家」のような温かみを感じる。「みなさん、そう言ってくださるんですよ」。迎えてくれたのは、理事長の張替(はりかえ)恵子さん。窓から柔らかな光の差し込むホールには、図書館の設立者の一人で、一昨年亡くなった名誉理事長、松岡享子さんの笑顔の写真が飾られていた。
創設者たちの夢
図書館の前身は、戦後の高度経済成長期、翻訳者・児童文学者として知られる石井桃子さん、主婦の土屋滋子さん、そして松岡さんが都内各所で立ち上げた4つの家庭文庫だ。子供と本を愛する女性たちの小さな営みが結集し、昭和49年、子供の読書専門の私立図書館として同館が誕生した。
「卓越した創設者たちが、はっきりと理想を掲げて始めたことは大きい」。図書館が半世紀にわたり人々に支持されてきた理由について、張替さんはこう説明する。
創設時の理念は、今も変わらない。児童図書館としてだけでなく、子供の本や読書についての参考図書館・研究機関として、また、子供の本に関わる仕事をする人のための研修機関として、人材育成や出版活動にも取り組んできた。
語り手が物語をすっかり覚えて語る「お話」の普及は、同館が初期から力を入れてきた活動の一つだ。子供が活字を読めるようになる前から、本の世界に親しむのに有効な手段で、同館では子供だけでなく大人のためのお話会や、語り手の講習会を開催。これまでに1千人を超える語り手を送り出してきた。
コロナ禍乗り越え
対面の触れ合いを活動の中心に据えてきた同館にとって、令和2年以降の新型コロナウイルス禍は大きな痛手となった。コロナ禍前は、年間約3千人の子供たちが児童室を訪れていたが、2年度は855人に激減。昨年度も、コロナ禍前の半数程度にとどまった。
それでも、お話会が再開したときには「震えが走るようだった」(張替さん)。対面の活動に改めて意義を見いだす一方、コロナ禍で始めたオンライン配信など、時代に応じた発信方法も模索している。
自らを「自画自賛協会会長」と称するなど、ユーモアあふれる人柄で知られた松岡名誉理事長。子供たちの生活様式の変化や、図書館を取り巻く厳しい現状に対峙するとき、張替さんは、松岡さんがよく「真面目は罪」と話していたことを思い出す。「一生懸命やろうとすると、狭量になりがち。『好きでしようがないからやっているの。許して』とクスッと笑う余裕も持ちながら、これからも子供たちと本の出会いをつくっていけたら」と話す。
焦らず、肩の力を抜いて-。50周年はじっくりとこれまでを振り返り、同じ思いを持つ仲間と、新たな「夢」を描く機会にしていくつもりだ。(緒方優子)
東京子ども図書館の催し
毎週水曜と第2・4土曜に「おはなしのじかん」、第1・3土曜に「わらべうたの会」。大人のためのお話会は月1回程度。日・月曜と祝日は全館休館、児童室と資料室は木曜も休み。11月18日に「なかのZEROホール」で、松岡享子さんのドキュメンタリー映画の上映会とバザーを開催。問い合わせは同館(03・3565・7711)。
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