<ビブリオエッセー>亡き父の姿に重ねて 「シベリア俘虜記」穂苅甲子男(光人社NF文庫)
産経ニュース / 2024年8月14日 12時38分
本を開くと数枚の古い写真に続いて「ソ連・外蒙古」にあった日本人収容所所在地の地図が出てくる。このシベリア抑留体験を書いた穂苅さんはタイシェットの収容所に送られたと書かれている。私の父も抑留され、最期の場所は「サビタヤ療養所」と記されていた。どのあたりなのか、その地に思いが及んだ。
この本を書店で見つけ手に取ったはロシアのウクライナ侵攻が始まった日だった。幼い頃に見た父の記憶がよみがえったのだ。あの抑留も昭和20年8月、ソ連の侵攻で始まった。
各地の収容所へ抑留された日本人は57万5千人にものぼるという。穂苅さんの体験記は捕虜となった日から約1年半の限界を超える日々が生々しく記されている。連行される捕虜の様子を読み、父の姿を想像するのはつらい。
どこまでも果てしない野を行く貨車。窓から見えたバイカル湖を日本海と間違え、つかの間喜ぶ場面が痛ましい。たどり着いたのは極寒期は零下60度にもなる最果ての収容所だった。
過酷な毎日が続き、穂苅さんは診断で入院が決まる。さらに精密検査で極度に悪い患者など残留組と帰還組に分けられた。おそらく父は帰還に耐えられない体だったのだろう。
父は昭和19年に召集され、満州へ送られた。終戦までに私あてに届いたはがきが今も16枚、手元にある。穂苅さんが信州の実家に戻った同じ昭和21年12月、父は抑留中に死亡した。
おぼろげに浮かぶのは父の顔。時の彼方に。
大阪府寝屋川市 由井和子(86)
◇
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