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歌舞伎町の女がつづる手紙 『YUKARI』 <聞きたい。>鈴木涼美さん(作家)

産経ニュース / 2024年6月16日 8時20分

『YUKARI』

『YUKARI』鈴木涼美著(徳間書店・1760円)

鎌倉の女子高を中退し、歌舞伎町の夜の世界で名前を変えて生きてきた紫は、30歳の節目を前に結婚を決める。男たちに合わせて自在に表情を変える、一人の女の手紙だけで構成された書簡体小説だ。

「筆まめな方で割と手紙を書くんですが、金井美恵子さんの書簡体小説『お勝手太平記』が異常に好きで、もう何回も読んでいます。他人が他人に宛てたものを盗み見てる感じで、私もいつかやりたいなと。実験的な意味も込めて書きました」

紫が手紙を出す相手は、学生時代に淡い交際をしていた古典教師の「柿本先生」、結婚相手でパイロットの「正博さん」、ホステス時代に二股をかけられた医師の「明石先生」、結婚直前に一夜をともにしたコリアンタウンのダンサー「ジンくん」と、年齢も地位もさまざま。手紙を読み比べると、紫の噓や気遣い、省筆が浮かび上がってくる。

「手紙は一人称の小説とも違って、手紙を出すその人に向けた真実であればよくて、一度出してしまえば何を書いたかはあやふやになる。この小説に収録されていない手紙や女友達との噂話も確実にあるはずで、そこまで読者の想像が広がったらうれしい」

恋多き男の前に都合よく次々と女たちが現れる『源氏物語』が好きだった柿本先生。先生に「若紫ちゃん」と呼ばれた10代のころを振り返りつつ、「一人で幾人でもあるようなこの十年の暮らし」を経験した紫は、『源氏』に書かれた複数の女たちの物語をなぞるような感覚を覚える。

「子供のころは源氏物語をなんとなく幻想的な話だと思っていたのが、大人になって読み返すとポルノっぽくもあり、ゴシップっぽくもあって。光源氏が出会う女たちも、『歌舞伎町の女だったらこれくらいの役は一人でやってるな』と」

歓楽街やアダルトビデオ業界で生きる女たちの姿を書き続け、『ギフテッド』『グレイスレス』がいずれも芥川賞候補作に。本作は三島賞の候補に入った。

「やっぱり私が興味があるのは、男より夜のお姉さん。矛盾した言動をさせてしまう、女の思考回路の複雑さにすごく興味があります」

(村嶋和樹)

すずき・すずみ 作家。昭和58年、東京都生まれ。東京大大学院修士課程修了。新聞記者を経て文筆業に。修士論文『「AV女優」の社会学』が記者時代に書籍化。

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