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過去最悪のクマ被害で警戒か 「逃げるのはだめ」アイヌの狩人が語る対処法が読まれている <ロングセラーを読む>『クマにあったらどうするか』(ちくま文庫)

産経ニュース / 2024年7月28日 9時20分

『クマにあったらどうするか』姉崎等・語り手、片山龍峯・聞き書き(ちくま文庫・924円)

クマの出没を警戒してか、ちくま文庫の『クマにあったらどうするか』が読まれている。ヒグマやツキノワグマによる人身被害が過去最悪となったのは昨年度のこと。被害者は19道府県で死者6人を含む219人。統計のある平成18年度以降、最多となった。

本書は「アイヌのクマ撃ち」である姉崎等氏(1923~2013年)がクマの生態や遭遇した場合の対処法を語ったもので、平成14年に木楽舎から刊行された単行本を筑摩書房が26年に文庫化。同社によると、令和5年6月~6年5月の販売部数が例年の約3倍に急増した。

発行数は18刷計6万6700部(6月26日)。従来はクマの生息域が広がる北海道・東北地方を中心に売れていたが、それ以外の地域に需要が拡大し、同社は「広範な地域でクマの出没や被害が報告されていることと連動した動き」との見方を示している。

姉崎氏は屯田兵だった父とアイヌの母の間に生まれた。8歳頃からアイヌ集落で暮らしたが、混血ゆえにアイヌに伝わる狩猟をほとんど教えてもらえず、クマを追って歩くことで山の全てを学んだという。単独で約40頭のクマを仕留め、指揮を執って集団で狩ったクマを含めると約60頭。銃を持たずに至近距離でクマに遭遇すること8回というだけに、対処法は実践的だ。

クマに遭ったら「逃げるということは一番駄目」「絶対に背を向けない」。動くものに反応する習性がある上、逃げると自分が弱いと相手に知らせることになる。逃げてもクマの方が速いと説く。クマに向かっていって助かったおばあさんの例や、クマに組み伏せられたときに生き延びるための方法も語っている。

クマは肉食動物と違い、いきなり襲ってくることはない。人間を強い動物だと思っているが、一度襲うと弱いと分かり、襲って食べると味を覚え、人を恐れず次々と襲うようになるという。

クマに習ったキノコ狩りの話など、クマの生態に関する口述も興味深い。クマは「人間の行動が全部見えるような近いところ」に遠慮しながら暮らしている。針葉樹の植林によりドングリなど餌のある森林が減少し、やむなく行動範囲を広げているのだそう。

一方、人間は山中に道ができて車で入れるようになり、山菜取りや渓流釣りでクマのエリアである森林地帯に入り込んでいる。食べ残しやカップ麺の容器、空き缶などを持ち帰れば、クマは人間のあとを追わないが、「規制を作ったとしても、人間の方が守りきれないでしょう」と語る。

本書を初めて手にしたのは5年前。赴任先の北海道で、行政機関がクマの専門家から意見を聴く会議を何度か傍聴し、クマの生態に興味を持ったからだ。公園の森に入り込んだ特定の親子グマについて、射殺する必要があるかどうかを見極める会議だった。

専門家の意見は「繁殖期の雄は子供を殺す場合がある。母グマが雄の求愛を避けるため、柵で囲われた園内に逃げ込んだ可能性がある」。クマの自然な行動で異常事態ではないと判断され、親子が園外に出たのを確認の上、公園の閉鎖が解除された。人間とクマが互いの領分を守って暮らすには、クマの生態を知ることが重要だと思った。

春から秋にクマの出没が日常的に報告され、人里に現れてもすぐに射殺するわけではない。射殺に至ると北海道外から苦情が殺到するのは、そんな事情が知られていないからだろうか。(寺田理恵)

■『クマにあったらどうするか』姉崎等語り手、片山龍峯聞き書き(ちくま文庫・924円)

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