「無自覚な加害」と向き合う 『ブルーマリッジ』 ＜聞きたい。＞カツセマサヒコさん（小説家）

『ブルーマリッジ』カツセマサヒコ著（新潮社・１７６０円）

物語は食品専門商社の人事部で働く２６歳の雨宮守が、同棲（どうせい）を始めて２年になる交際相手にプロポーズしてＯＫの返事をもらう場面から始まる。「もう僕らのあいだに、新鮮な出来事はほとんど残されていない」と考える雨宮。その心中に去来するのは、喜びよりも安堵（あんど）の感情だ。

「過去２作は恋愛ものの青春小説を書いてきて、今度は恋愛が終わるシーンから始めたいという感覚が強かった」

もう一人の主人公の土方剛は、雨宮と同じ会社で勤続３０年目の営業課長。得意先にコツコツ足を運んで信頼を得るたたき上げで、自分も部下も長時間労働は当たり前だ。だが土方は娘の結婚式の翌々日に妻から離婚届を突き付けられ、２人の男の対照的な「マリッジ」が浮かび上がる。

「これまでも読者から『周りが結婚して焦ってます』や『夫が何もしてくれなくて別れたい』といった声が届いていて、結婚願望と離婚願望が同じくらいあふれているなと。そこでブラックボックスになっている『結婚』というものを考え始めた」

両家の顔合わせが近づく中で社内のハラスメント対策を進める雨宮と、妻の家出から目を背けつつ部下へのパワハラ行為で懲戒処分を受ける土方。一見対極に位置する２人だが、「無自覚な加害」に焦点を移すと物語はまったく異なる像を結ぶことになる。

「僕自身もウェブライター時代に、女性をただの性の対象として見ているような言葉を使っていた」と自戒を込める。過去の加害に自覚的になったのは、女性の困難や差別を描いた韓国発のベストセラー『８２年生まれ、キム・ジヨン』などを読んだことがきっかけだ。「自分がやってきたことの加害性に気付くのは驚きの連続。過去は変わらないが、自覚できたのなら未来は変わるという希望になる」

「無自覚な加害」は、社会生活を送る限り誰しも避けられないもの。「年齢や性別は関係なく『私のことかも』と思う人なら手に取ってくれるかなと。２０年後に読み返したときに『そんな時代もあったね』と思えていたらいいな」

（村嶋和樹）

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かつせ・まさひこ　小説家。昭和６１年、東京都生まれ。ウェブライターとして活動しながら、令和２年に新社会人の青春を描いた小説『明け方の若者たち』（幻冬舎）でデビュー。同作は映画化され、１０万部を超えるベストセラーに。本作が３作目の長編小説。

『ブルーマリッジ』カツセマサヒコ著（新潮社・１７６０円）