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<ビブリオエッセー>描き出された希望と絶望  「ゴールデンボーイ-恐怖の四季 春夏編」スティーヴン・キング著 浅倉久志訳(新潮文庫)

産経ニュース / 2024年6月17日 13時22分

無人島に持って行くなら、という月並みな質問を想定する。何度やっても結局、選んだ中の一冊はこの本になる。中学3年で初めて読み、高校1年のとき友人に薦めて「面白かったよ」と言ってもらった思い出がある。

モダンホラーの帝王、S・キングの、ホラーではない2編「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」が入ったお得な一冊だ。前者は映画『ショーシャンクの空に』の原作。殺人のかどで投獄され、無実を叫び続けた男の脱獄譚である。後者は優等生だった少年の精神の崩壊と転落を描く。まったく違った味わいの物語が詰まったこの本の、一粒で二度おいしい感、これである。浅倉さんの訳も好きだ。

終身刑となった元銀行員、アンディーの苦難とそれに負けず塀の中でも泰然とふるまい、やがて伝説になってゆく姿を、囚人仲間の視点でつづる前者にあるのは希望。対して後者が描き出すのは底なし沼のような絶望である。

何不自由なく育った「これこそ全米代表といった感じの少年」トッドが興味を持って調べたのはホロコーストの記録だった。そこにナチス残党の名前があり、ある老人と知り合う。人生を狂わせてゆく展開は何度読んでも恐ろしく、しかし圧倒的な説得力をもっている。

終盤は実におぞましい。事件を追及するイスラエルの調査員は、人間の残虐行為にはときに「想像力の地下墓地を開くなにかが」あるのかもしれないともらす。それは「ありふれた」姿をしているんじゃないかと語るのだ。

結末を知っている小説をそう何回も読んで面白いかと夫に聞かれたことがある。読めばわかるとしか言いようがない。読み過ぎて手元の文庫本は2代目だ。そろそろ表紙が危ない。

大阪府茨木市 大神万理子(42)

投稿はペンネーム可。650字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本や漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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