インバウンドや物流増で果実を食い荒らすハエ侵入の恐れ 『特殊害虫から日本を救え』 <聞きたい。>宮竹貴久さん(昆虫学者、岡山大学術研究院教授)
産経ニュース / 2024年7月7日 10時0分
『特殊害虫から日本を救え』(集英社新書・1100円)
新鮮なマンゴーやゴーヤーを沖縄から全国に出荷できるのは、フルーツやウリ類を食い荒らす特殊害虫のミカンコミバエとウリミバエが平成5年までに根絶されたからだ。
特殊害虫とは、国外から侵入し、農作物に被害を及ぼすため発生地からの移動が植物防疫法で規制されている害虫。ミバエ類やサツマイモを食べるゾウムシ類との長年にわたる戦いの歴史と、ジャングルにも分け入った現場の人々の奮闘を本書につづった。
工場で増殖させたウリミバエの不妊虫を毎週1億匹ばらまき、野生虫と交尾しても卵が孵化しないようにするなど、根絶作戦の詳細と試行錯誤の過程が興味深い。昆虫学者である著者は「日本は特殊害虫の根絶実績で世界のトップを走っている」とする。
ミカンコミバエは、日本では昭和43年に奄美諸島で根絶作戦が始まり、沖縄本土復帰後に沖縄諸島や先島諸島でも実施された。だが平成27年以降、南西諸島に繰り返し侵入、近年は九州各地でわなにかかっている。再定着を許せば長年の努力が無駄になる。
「農薬である程度抑えることは可能かもしれないが、ミカンをむくとウジムシが出てくるというようなことが日常的に起こり得る」
ミバエ類の根絶プロジェクトの成功は、日本の農業を守ることにもつながっている。
「安いフルーツやカボチャを日本に輸出したい国はたくさんあるが、日本にはミバエが生息していないという理由で輸入を止めている。輸入に規制がなくなると、日本の農業がどこまで耐えられるか」
再侵入には、気候変動やインバウンド(訪日外国人旅行)の増加、インターネット販売拡大に伴う物流増などが関係しているとみられる。沖縄県では、県外への持ち出しが規制されているサツマイモなどが、フリマアプリによる個人間取引で送られるケースが増えて問題になっている。
「沖縄の、特に若い人たちにミバエの根絶やサツマイモの移動禁止が知られていないと聞いたことが、本書を書いた動機の一つ。インバウンドや海外からの移住者にも知られていない可能性がある」
根絶プロジェクトは戦略の転換を迫られている。そう警鐘を鳴らす。(寺田理恵)
◇
みやたけ・たかひさ 岡山大学術研究院教授。理学博士。昭和37年、大阪府生まれ。ロンドン大客員研究員、沖縄県ミバエ対策事業所主任研究員などを経て現職。
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