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「作家の特権」で皇族の物語に血を通わせる 林真理子さん新刊「皇后は闘うことにした」

産経ニュース / 2025年1月8日 7時30分

「皇后は闘うことにした」の表紙

「ノンフィクションだと思われるのは困りますが、歴史的な事実をきちんと調べた後は、密室の中のこと、心の中のことは作家が自由に書く特権があると思って書いています」。作家の林真理子さん(70)の新刊『皇后は闘うことにした』(文芸春秋)は、近代の皇族たちを主人公に据えた短編小説集だ。幼少期から家族と分離され、男女を問わず縁談に人生を左右される「特殊な世界」を、練達の筆致で血の通った物語に仕上げた。

〝皇族フェチ〟を自称する林さんの原点は「ミッチー・ブーム」だ。保育園時代に目にした、上皇后さまのご成婚パレードに夢中になったのがきっかけだったという。

「幼心に、こんなに美しい方がいらっしゃるというのにショックを受けて。保育園の庭で車のおもちゃに友達を乗せて、美智子さまごっこをやっていました」

今作では、皇室に大きな変革が起きた明治維新後の皇族たちの姿を描く。

江戸時代までは伏見宮・桂宮・有栖川宮・閑院宮の4つの宮家のみが継承されていたが、皇族確保の観点から伏見宮系の宮家が相次いで創設。一方で、伊藤博文や山縣有朋といった維新の元勲たちは皇族の数の急増に懸念を抱いており、新たな宮家は政治的な緊張関係の落とし子でもあった。

「現代でも旧宮家の皇籍復帰の議論が起きていますが、まずそもそもの経緯を知らない人が多いのでは。国民の皇室に対する好感度は高い一方で、そこがいびつな状況を生んでいると思います」

若き皇族たちが縁談に翻弄される人生を受け入れて生きていく中で、表題作「皇后は闘うことにした」の主人公である大正天皇の后、貞明皇后(九条節子)はひときわ大きな輝きを放つ人物として描かれる。

節子は五摂家の一つ、九条家に生まれながら農家に里子に出され、健康的に日焼けした「黒姫さま」と呼ばれていた。昭和天皇をはじめ4人の皇子をもうけるが子供たちと引き離され、自身を「貴い黄金色の玉子を産むニワトリ」と感じ精神に変調をきたす。しかし、明治天皇の后、美子皇后から自身にかけられていた期待の大きさを知り、わが子の妃選びに口を挟ませない強い心を持つ人物へと変貌する。

「私にとっては、貞明皇后は明治維新の安定の象徴。政権が代わって混沌としていた明治が、4人の皇子が生まれ大正に入ってようやく安定する。調べれば調べるほど、貞明皇后のお力は大きいなと」

大正期に花開いた文化についても、「わりと言いたいことが言える、良い意味で女性的な文化だった」と感じるという林さん。「大正生まれの私の母親も、『一番楽しかったのは大正の終わりから昭和の初期だ』と言っていました。子供のための本や歌がいっぱい作られて、中産階級が成熟した時期でもあった」とみている。

現代の皇室でも、女性皇族が果たしている役割の大きさを痛感している。「戦後は美智子さまがスーパースターで、今は愛子さまの人気がすごい。皇室の人気を左右するのは、女性の方々ではないでしょうか」

林さん自身も令和4年に母校の日本大の理事長に就任し、「大学の顔」として記者会見などに臨む機会が増えた。

「私の場合はたいそうなものではないんですが、やはり責任ある立場は大変だなと。現代の皇族方も、本当に国民のために、たとえつらいことや理不尽なことがおありでも、ちゃんと責任を全うしようという方々だと思います」(村嶋和樹)

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