『安倍晋三〝最後の肉声〟』著者の阿比留瑠比記者に聞く「岸田氏は無党派保守層手放した」
産経ニュース / 2024年7月6日 11時0分
安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから間もなく2年。それを前に、安倍氏に四半世紀にわたって取材してきた産経新聞の阿比留瑠比論説委員による『安倍晋三〝最後の肉声〟 最側近記者との対話メモ』(産経新聞出版・1650円)が3日発売された。阿比留論説委員は、安倍氏が日本近現代史と首相を輩出した一族の「ファミリーヒストリー」を重ねていたと推測し、それゆえ「日本の歴史が不当に貶められることが許せなかった」との見方を示した。阿比留論説委員との一問一答は以下の通り。
―本書では、一般読者が知らない安倍氏の赤裸々な本音や実像が紹介されている。取材者として近くから見た安倍氏の人物像とはどのようなものだったか
「とにかく前向きで、父の安倍晋太郎元外相譲りの優しさもさることながら、一度定めた目標には匍匐前進も回り道もいとわずに近づこうとする執念も感じました。自民党内では若手議員の頃から議員連盟などをいくつもつくり、そのコアメンバーを固めつつ仲間を増やし、20年かけて培ったその力で再チャレンジを果たし、2度目の首相に就いたのは、まさに安倍さんの真骨頂だったと思います。この本でも紹介していますが、第二次政権時に、憲法改正について第一次政権時の参院選で適当に勝っていた場合よりも近づいたと振り返っていたポジティブさには感心しました」
靖国参拝巡る駐日米大使館「失望」表明に憤慨
―憲法改正など何年かかろうとも国家や国民にとって必要なことは絶対に成し遂げようという強い姿勢が本書を通じて浮かび上がる。理不尽なことに対してもすさまじい怒りを露にすることが少なくなかったとある。特に印象に残っている発言は
「祖父も大叔父も首相といういい意味での世襲政治家として、日本の近現代史は自分たちのファミリーストーリだとみていたのではないか。過去の日本の歴史が歪められたり、不当に貶められたりすることが許せないという思いが強かったのだと思います。オバマ米政権時にバイデン副大統領が安倍さんの靖国神社参拝に対し、駐日米大使館に『失望』を表明させたときには、米政府関係者とはしばらく会談しないとまで怒っていましたし、中国や韓国の反日勢力を勢いづかせるだけで全然戦略的でない態度にも憤っていました。所詮は白人がルールや善悪を決める欧米社会の冷然としたシステムを承知しつつ、それには容易に屈さないという意志が強い人でした」
―安倍氏の外交面でのレガシーは少なくない。とりわけ世界を翻弄したトランプ大統領との関係構築による日米同盟の基盤強化、戦後レジームを終わらせた対中韓外交などにみる政治技術は特筆に値する。阿比留論説委員から見た安倍氏の凄みとは
「ある時、民主党政権の外交について『中国と問題が起きたら中国だけを見て、韓国と問題が起きたら韓国だけを見るからダメなんだ』と語っていました。その通り、安倍さんは地球儀を俯瞰する外交を展開し、中韓の外堀、内堀を埋めて安倍さんに会わざるを得ない形をつくってしまった。安倍さんによる自由で開かれたインド太平洋構想は、米国が初めて日本の戦略を自らの戦略として採用した例として特筆すべきです。伝統的に双方を苦手としたインドと米国の仲を取り持ち、中国に傾きがちだったオーストラリアを引きはがして日米豪印の枠組みクワッドをつくったのも画期的です」
自民も無党派保守層をあきれさせている
―安倍氏が亡くなったあと、自民党は漂流を続け、行き先を見失った感がある。かじ取り役の岸田文雄首相も当初は安倍路線を引き継ぐ意向を示していたが、その意志は今判然としない。安倍氏が岸田氏をどう具体的に見ていたのか、また支持率が低迷する岸田氏はどこでつまずいたのか、そして今の自民党に必要なものは何か
「安倍さんは岸田首相を『誠実な人』だと言っていました。ただし、飲み会などでもあまりしゃべらず、聞き役に回ることの多い岸田首相についてつかみあぐねていた部分もあったのではないか。一方、岸田首相は安倍路線を継承した政策を前に進める分にはいいが、それ以外の独自政策を取ろうとすると、いろいろと迷走しているように見える。安倍さんは無党派の保守層を大切にし、彼らに気を遣った。それは政治信条的に近いということも当然あるが、それだけでなく、この層をしっかり確保していれば自民党は選挙に勝てるという確信もあった。ところが、岸田首相はLGBT法でこの層を手放したし、自民党もまた今、選択的夫婦別姓の検討でこの層をさらにあきれさせている」
安倍氏の肉声メモ「まだまだある」
―最後に。本書は雑誌「正論」に連載中のコラムを加筆・修正したものだが、まだ出し切っていない安倍氏の肉声はあるのか。また、安倍氏の赤裸々な肉声をふんだんに盛り込んだ本書を、安倍氏が読んだらどんな反応を示すと思うか
「安倍さんの肉声はまだまだあるが、あまり特定の政治家や政党への評価や感情表現にかかわることは表に出すべきではないと考えました。また、テーマや構成に合わず、記事化していない言葉もたくさんあります。安倍さんはこれまでも私や他の記者の書いた本を読んで『よかったよ』などと感想を述べてくれましたから、生きていたらこの新刊もきっと目を通し、苦笑したのではないかと思います」
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