どう生きるかを問う 『恋とか愛とかやさしさなら』 一穂ミチ著 <書評>評・金原ひとみ(作家)
産経ニュース / 2025年1月5日 7時0分
『恋とか愛とかやさしさなら』一穂ミチ著(小学館・1760円)
ある日、あなたのパートナーが盗撮で捕まったらどうしますか? 本書の問いはストレートだ。
主人公はカメラマンの新夏(にいか)。恋人の啓久(ひらく)にプロポーズをされた翌日、彼が盗撮で捕まったことを知る。傍目には冷静に映る新夏だが心はめちゃくちゃで、周囲の人に話を聞いたり、相談したり、右往左往しながら、自分はどうするべきなのか自問自答を続ける。恋人、二人の共通の友達、母、父、姉、周囲の人々は立場の違いだけでなく、あらゆる過去や事情の中にあって、受け止め方は全く違う。
最初は、自分はこの人に近いかも、いや、この人の考え方も分かる、と思いながら読んでいたが、読み進めるうち、全ての考えに共感できなくなっていくのを感じた。そもそも信用とは、その人が永遠にその人であるという前提に立った信用でしかない。今日と明日は大して地続きではなく、世界も人も変容し続けるものと知っているはずなのに、私たちは「この人を信用したい」という思いに突き動かされ「この人はこういう人で、決して自分を裏切ることはない」と信じ込む。それは厳密には信用ではなく、自分や相手、そして自分たちの関係に捧(ささ)げる祈りでしかない。
「自分はこういう人間で、決してこういうことはしない」と思い込むことも同様だ。
本書に書かれているのは、加害者や被害者への同情ではない。許しでも糾弾でも、貶(おとし)めでもない。ただひたすらに、私たちは死ぬ時まで考え続けなければならないのだと、この物語は訴えている。確たるもののない世界に産み落とされた、確たるものを持たない私たちだからこそ、傷つけること傷つくこと、信じたさと信じられなさ、複雑で多層的で、常に揺らぎ、時に一瞬で変容すらしてしまう脆弱(ぜいじゃく)な人間そのものと対峙(たいじ)し続けろと。
冒頭の問いは正しいか間違っているかではなく、答えがあるものでもない。あなたはどう生きていくか、を問うているのだ。
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