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知ってほしい「図書館向け書籍」(上) 社会性×ユニークさ、市販化に発展も 近ごろ都に流行るもの

産経ニュース / 2024年6月22日 13時0分

編集と営業のチームワークが発揮される図書館向け書籍。社内で談論する沢田未来さん㊧と後藤真宏さん=東京都品川区のGakken本社(重松明子撮影)

図書館向けに出版されている書籍があることを知っていますか? 半世紀以上の歴史があり、子供のころそれと知らず手に取っていたはずだ。学校や地域のみんなで読んでも長持ちする堅牢製本で、わかりやすい絵や写真が目を楽しませる大判の立派な本。厚い紙を夢中でめくって指が痛っ!…なんて記憶も「あるある」だ。配架対象は全国の公立小中学校と図書館の約3万3千施設と狭い。このため部数競争から距離を置き、編集者が子供の成長の糧にと願い、社会的テーマに取り組み、知的好奇心を育むユニークな書籍が続々発行されている。

「なぜ僕らは働くのか」悩める大人に大ヒット

ページをめくるとムンクの「叫び」が見開きで迫ってきた。大きな口を開けている有名な自画像だ。実はこれ、叫んでいるのではないという。「自分にしか聞こえない『心の叫び』に耳をふさいでいた」と解説文が指摘する。「後方の二人の人物を見てください。突然の叫びに驚くことなく、平然と歩いていますよね」

なるほど、ムンクは相当心を病んでいたのだな。

絵画鑑賞のポイントを知ることで巨匠たちが身近になる。ミケランジェロ「天地創造」、円山応挙「仔犬図」、マネ「草上の昼食」…。名作を網羅したこの画集は「意味がわかるとおもしろい! 世界のスゴイ絵画」。Gakkenが、図書館向け書籍として昨年2月に発売し3刷6500部の好評を受け、今年4月に市販本化した。収録絵画を50点から75点に増やしている。企画・編集を担当した沢田未来さん(31)は、「西洋画の陰影を天才的な技術で取り入れた葛飾北斎の娘の応為(おうい)の作品など、大人女性にも共感される要素を取り込みました」。

図書館向けの当初予算では使用料が高くて断念した名画も改めて収録。一回り小さく軽いソフトカバーになり、価格は図書館向けより2千円近く安い2750円とお得だ。「購入層はお子さんのためといいつつ、自分でも楽しんでいる母親層が最も多い」と図書館向け書籍営業の統括、後藤真宏さん(44)。

図書館や学校をまわる営業担当が現場の意見を吸い上げ、編集者に伝えるという独特のチーム体制がある。一般書店への配架はないものの注文すれば個人購入もできるため、人気に火が付いて市販本化されるケースが増加。同社ではこれで6冊目だという。

最初の成功事例が平成31年発行「なぜ僕らは働くのか」だ。発売早々、私立小学校から「教科書として使いたい」と大口注文を受けるなどの手応えがあり、翌年に市販本化すると50万部超えの大ヒット。簡単な漢字のルビもそのままだが、就活大学生や迷える社会人にも支持された。

学校教諭が外の多様な職業や働き方を教えるには限界もあり、指導に困っている分野の補完も図書館向け書籍の役割だという。

「編集者として、市販本ではやりづらいけれど、子供たちに絶対に伝えたい社会的意義のあるテーマに取り組めるので、やりがいがある」と沢田さん。

今年2月発行、ウクライナ戦争をテーマにした「僕らは戦争を知らない」を企画した。日本に避難中のウクライナ人女子中学生らに取材。リアルな体験や思いを伝える手法としてまんがを選び、原作から手掛けた。ソフトな表現ながら「戦争が消えてなくなることはない」という世界の現実を直視させたうえで、不条理を減らすために個々ができることを考えさせる。

監修はロシア・旧ソ連諸国の安全保障政策研究者、小泉悠・東大准教授。沢田さんが、ツテのない所から交流サイト(SNS)経由で連絡を取り、刻々と変わる戦況のなか研究室に足を運んで制作を進めていった、入魂の一冊である。図書館で多くの目に触れてほしい。

(重松明子)

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