神戸市の中学部活動、来夏にすべて廃止し地域移行へ 政令市初、担い手確保や費用は未知数
産経ニュース / 2025年2月1日 18時10分
教員の過重労働が指摘される中、国が進める働き方改革の柱の一つが、公立中学校の部活動の地域移行だ。令和8年度からの「改革の実行期間」が迫る中、神戸市は昨年12月、政令市では初めて部活動の廃止と地域移行を発表した。来年9月からの移行に向け今年1月に活動団体の募集を始めたが、指導者が確保できるのか、費用がどうなるかは未知数。人口規模の大きな政令市の取り組みの行方が注目される。
「部活動を一旦終了し、全て『KOBE◆KATSU(コベカツ)』に移動する」
昨年12月16日、神戸市教育委員会の福本靖教育長はこう宣言した。
コベカツは、地域のスポーツクラブや大学、企業や保護者などが主体のさまざまな団体がクラブ活動を担う市独自の仕組みだ。学校施設などを活用し、小学生や地域住民の参加も可能。生徒は複数のクラブに在籍できるが、各団体が設定した費用を支払う必要がある。
熱心に指導する教員が率いてきた部活動も廃止される。希望する教員は兼業という形で参加できるが、在籍校での活動はできない。「教員が部活動としてやることはありません。同調圧力で強制するつもりも全くない」と福本教育長は強調した。
演劇部ない学校も
背景には、少子化の急速な進展もある。神戸市立中学の令和6年度の生徒数は3万3139人で、平成24年度と比べ約3700人減少。令和6年3月時点の市内の2~4歳は約2万9千人で、市教委は「単純計算で10年後の中学生は3分の2に減少する」とみる。
影響はすでに表れており、部活動数も平成24年度以降、令和3年度までに184部減った。団体競技で部員数が集まらず、大会に出場できなかったり、文化部では吹奏楽部以外が「総合文化部」の形を取ったりするケースも。美術部や書道部、演劇部などがない学校が増えている。
「現状の部活の選択肢が充実しているわけではない。子供のニーズも変化している」と話すのは市教委児童生徒課の安田慎課長。市が行った小学校児童へのアンケートでは、既存の部活にはないダンスや釣り、料理、eスポーツなどの希望が多く、民間の参入によってこうしたニーズに応えられる可能性は高まる。
偏在や高額の懸念
神戸市は1月から活動団体の募集を開始。企業や私立中学の部活なども関心を示し、約140団体が手を挙げた。今後も募集を続けるが、都市部に担い手が偏在しないか、費用が高額にならないかとの課題がある。
今年度から地域移行を始めた兵庫県川西市では、69団体が活動。1つのクラブが市内に複数の拠点を設けるなど地域偏在を防ぐ取り組みがある一方、遠方のクラブに保護者が送迎する例も。人件費や会場費など家庭の経済的負担の増加は避けられず、無料~月1万円程度までと、ばらつきが大きい。市は、低所得などの一部の世帯に向けては、参加費用の補助も検討している。
地域移行に賛否 従来型続行の自治体も
公立中学校の部活動を地域団体などに移行する国の部活動改革は、教員の負担軽減の必要性や急速に進む少子化を背景に議論が始まった。令和5~7年度の改革推進期間を経て、8~13年度には「実行期間」に。現在の地域移行は休日を対象としていたが、平日にも広げていく。
国は4年12月に部活動に関するガイドラインを策定し、教員の関与を減らして業務負担の改善を図る方針を打ち出した。スポーツ庁が昨年5~6月に1741市町村などを対象に行った調査では、地域スポーツクラブや複数校での合同部活動といった形へ休日の部活動を移行した数は徐々に増え、7年度までに全体の54%になる見込みだ。
教員の負担軽減だけでなく、生徒がより専門的な指導を受けられたり、活動継続が難しい少人数の部活動を広域で生徒を集めることで実施できたりする利点がある一方、受け皿となる団体や指導者は都市部に多く、地域格差が生じる懸念も。指導者による暴力やハラスメントをどのように防ぐかといった課題もある。
従来型の部活動を継続する自治体も少なくない。熊本市は昨年11月、学校と市教育委員会が主体の部活動を今後も続ける方針を打ち出した。同市教委の担当者は「何かあったとき、市が責任の主体となることが生徒や保護者にとって一番の安心安全につながると考えた」としている。
部活動を巡っては、1960~70年代にも、教員の負担軽減を目的に地域移行が議論されたものの、受け皿不足や指導者への報酬を捻出できないなどの理由で実現に至らなかった経緯もある。
文部科学省は来年度に向け、地域部活動の環境整備に約66億円を予算計上。地域クラブ活動の実証や指導員の配置支援などに充てるとしている。
子供のスポーツ文化活動、国が主体となり保障を 神谷拓・関西大教授(スポーツ教育学)
公立中学校の部活動の地域移行を成功させるには、地域での子供のスポーツ文化活動を保障している欧米同様に国が予算を投じ、施設やクラブの整備を進めることが先決だ。
日本ではスポーツや文化活動の環境整備に国が十分なお金や人を投入せず、学校や教員の善意に頼ってきた。欧米では、人口でいうと千人に満たない単位で1つの施設やクラブがあるが、日本はその規模に遠く及ばない。部活動を学校の外に出すだけでは、指導者の善意に頼って疲弊させるといった問題が今度は地域で起こるだけだ。
また、受益者負担となれば、経済的に余裕がない家庭では、部活動をあきらめざるを得ない状況も生じるだろう。部活動に参加することはスポーツ基本法や文化芸術基本法で保障された権利であり、本来は子供のスポーツ文化活動を学校と地域で保障すべきだ。
教員の働き方改革から議論が始まったため、こうした視点が見過ごされてしまっている。学校の外にスポーツ文化活動を出すという結論ありきで進めるのでなく、丁寧に議論を進めるべきだ。
(地主明世、木ノ下めぐみ)
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