すぐ変わる、幼な心と秋の空 踊れず半べそが…バルーンとダンス 息子は4歳 還暦パパの異次元子育て
産経ニュース / 2024年10月7日 8時0分
遅ればせながらパパになったベテラン新聞編集者が、還暦を迎えて4歳の息子の子育てに奮闘中。笑顔と驚きに満ちた日々を、あるがままにつづります。
◇
秋分の日。幻想的な夕焼け空を見て、長い長い夏がやっと終わったことを実感した。
「きれいだね。まだ、かえらなくてもいいよね」
赤い空を背景に、ライトアップした観覧車がきらきら輝いている。東京の下町に昔からある荒川区立あらかわ遊園。午後8時まで特別に夜間開園していたため、「ぜんぶののりものにのるんだ」と息巻いている。
さっきまで、泣き出しそうな表情を浮かべていたのがウソのようだ。
バルーンを手にすると…
空が赤く焼けだしたころ、夕暮れに合わせた「あらかわキラキラパレード」というイベントが開かれた。テーマパークで行われるような大がかりなものではないが、さまざまに電飾を施した電動アシスト自転車の列が園内をまわったり、プロのダンスチームが子供たちと一緒に広場で踊ったりする企画があった。
「いっしょに踊ろう!」と呼びかけられ、探偵アニメのキャラクター風に仮装したおねえさんに手を引かれていく息子。多くの家族連れでにぎわうなか、あちこちから子供たちが親の手を離れ、広場に集まった。
子供たちに人気の「ぼよよん行進曲」が流れだすと、おねえさんが「この曲、みんな知ってるよね?」と声をかけ、大きな身ぶりで、ふりつけていく。すぐに踊りの輪ができた…のだが、息子だけ、様子がおかしい。
徐々に険しい顔つきになり、離れて見守るママに向かい、無言で手を伸ばしている。甘えているのか、いっしょに踊るつもりだったのか。パパとママは、ほかの子たちのように〝独り立ち〟してほしくて、笑顔で見守るしかない。おねえさんも、なんとか踊りの輪に入れようと話しかけてくれるが、息子の顔はだんだん「半べそ」に。
ひとりだけ仏頂面でたたずむ息子。やがて観衆から、「くすくす」と笑い声が起き、「かわいい」「大丈夫?」といった声が聞こえてきた。親としては、なんともいたたまれない気分。これが、幼児向けテレビ番組の収録現場だったら「放送事故」である。
短いダンスタイムがとても長く感じた。踊り終えた子供たちに、おねえさんからバルーンが配られた。参加者の母親が私に近づいてきて、「坊やにももらってあげて。とてもがんばっていたから」と声をかけてくれたので、息子の手を引いてもらってきた。
バルーンを手にすると、息子はケロリと笑って、パパとママの間で踊り出すではないか。なんと内弁慶なのか。思わず抱きしめてしまった。恥ずかしがり屋だが、踊り好き。それもいいではないか。
秋の空模様のように変わりやすい4歳児の心。喜怒哀楽についていくのは大変だ。それでも成長につれ、だんだん個性が垣間見えてきて、面白い。
ノリよくふるまえなくても
あるとき、家で息子が甘えながら、「ママのおなかのなかで、うたってたからうるさかったでしょう」と口走ったことがあった。
赤ちゃんには、科学的には解明されていない「胎内記憶」があって、「4歳ぐらいまでは覚えている」などと書いている育児書がある。赤ちゃんは「おぎゃー」が〝第一声〟。胎内でうたっているわけはないのだが、そのとき、妻はこんなことを言った。
「妊娠5カ月目ぐらいの妊婦健診で、エコー(超音波画像)を見ながら、主治医から『踊ってますね』と言われたことがあるの」
パパもママも音楽好き。息子も親に似て、生まれる前から音楽も、踊りも「友達」だったのかもしれない。たとえ人前で、ノリよくふるまえなくても。
中本裕己
なかもと・ひろみ 昭和38年生まれ。前「夕刊フジ」編集長。著書に『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』。
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