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リアル中学受験 許せなかった息子の「塾休みたい」…優等生だった親、押し付けた価値観 リアル中学受験-わが家の場合

産経ニュース / 2024年7月19日 13時0分

beauty_box /イメージマート

あのときの言動は「教育熱心」を通り過ぎて「やりすぎ」だったかもしれない-。都内の私立中高一貫校に通う高1長男(15)の中学受験の日々を、母親が懺悔を込めて振り返ります。都内の私立中高一貫校が課す思考力を重視する新タイプ入試に挑戦することを決めたわが家。ただ親の肝いりで選んだ塾は、自宅からバスと電車を乗り継ぎ、1時間ほどかかるのが難点で、通塾の負担が息子の体調変化を招き、親子関係にもひびを生じさせたのでした。

異変は小学5年の秋に

息子の中学受験をめぐり、私にとって最も苦いエピソードといえば、息子が小学5年生だった秋に起きた出来事です。この時期、息子の塾に対する「行き渋り」が起きていました。

ある日の午後4時ごろ、職場で仕事をしている私のスマホが鳴りました。その日は息子が塾に行く日。本来なら息子はすでにバスに乗っていなければいけない時間です。通話のために廊下に出ました。

「あのさ、お腹が痛くてトイレから出られなくて、バスに乗れなかった」

息子は思春期でしたが、当時はまだ声変わりはしていませんでした。スマホから聞こえる声は、とても幼く聞こえました。前週も、同じ理由で電話がかかってきました。私は行き渋る理由を勝手に勘ぐって、こう言いました。

「宿題をやってないんでしょ。授業開始直後の宿題チェックの時間をやり過ごしたくて、わざとバスに乗り遅れたんじゃないの?」

問い詰める声が廊下に響き、たまたま通りかかった同僚がギョッとした顔でこちらをうかがってるようすが視界に入りました。

「本当にお腹が痛いの。塾、休みたい」

私はそのとき、息子が塾を休むことも、遅刻することも、どうしても許せなかったのです。

親の価値観の押し付け

なぜ許せなかったのか。今思えば、私の価値観を息子に押し付けていたのだと思います。私は子供のころ、親の言いつけや学校の先生の指導を疑いなく素直に受け入れる〝優等生タイプ〟でした。宿題を忘れたり、塾を休んだりすることは「してはいけないこと」という根深い刷り込みが私の中にはありました。

子育てをしていると、自分の幼少期の追体験をしている感覚になるときがあります。子育てのいろんな場面で、子供のころにしていた通りの行動を子供にもしてほしいという欲望が顔を出すのです。「塾を休みたい」と言われたこのシーンも、まさにそう。自分は辛くても塾に休まず通ったという記憶が呼び覚まされました。

廊下にはまだ、同僚の姿がありましたが、そんなことは気にも留めず、電話越しに、こう言い放っていたのです。

「塾を休みたいって、それはいやなことから、ただ逃げてるだけでしょ。休んじゃいけません、早く塾に行きなさい!」

我に返った上司の指摘

そのときの私の表情は、ものすごい剣幕だったようです。冷静さを欠いたまま、デスクに戻り、カリカリしたムードで仕事にとりかかろうとしたところ、上司から「ちょっと」と声を掛けられました。廊下で一部始終を見ていた同僚が、私のただならぬ様子を見て心配し、上司に伝えてくれたとのことでした。事情を説明すると上司はこう言いました。

「息子さん、お腹が痛くなっているんでしょ。そこまでして、そんなに塾に行かなきゃだめなの?」

上司は冷静に私を諭してくれました。それなのに、私はまだかたくなに「うちの子が逃げ腰なんです」と言葉を返してしまいました。すると上司は少し語気を強めて、こう言ってくれました。「『逃げる』なんて言い方はないでしょ。子供に対して、言葉が過ぎるよ」

ハッと我に返りました。上司も同僚も、本来なら見てみぬふりをしたってかまわない他人の家庭のことに、こうして親身になって介入してくれたのです。「バスに乗れなかった息子が悪いんじゃなくて、私が、おかしくなっているんだ…」。息子の受験なのに、自分のことのようにのめり込んでいることに気が付かせてくれた2人への感謝とともに、自分のとった言動への悔悟があふれ、急いでスマホを取り出しました。

「今日は塾を休んでいいよ」

「ありがとう」

聞こえてきたのはか細く、絞り出したような息子の声でした。

<つづく>

いちご大福(2男の母、会社員)

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