発がん性指摘のPFAS、水道水は安全か 高濃度の岡山では血液検査、国は全国調査着手
産経ニュース / 2024年6月26日 7時0分
発がん性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」の汚染実態を把握しようと、政府が水道水の全国調査に乗り出した。米国が今年4月、世界的にも厳しい水準の飲み水の濃度基準を設定するなど、各国で対策の強化が進んでいる。国内ではこれまで、水道水や河川などで国の暫定目標値を超える濃度のPFASが検出され、各自治体からは、国の対応の不備を指摘する声も上がっている。
フィルターで除去可能
PFASは自然界ではほぼ分解されず、生物の体内に蓄積されやすい。撥水(はっすい)、撥油の性質があるためフライパンのコーティング、半導体製造などの工業プロセスにも使われてきた。有害性が明らかになり、欧米では飲料水の規制を強化。米環境保護局は今年4月、PFASの代表的物質であるPFOSとPFOAについて、1リットル当たり計70ナノグラム(ナノは10億分の1)としてきた勧告値を、順守の義務もある各4ナノグラムの規制値に改めた。
日本では、水道水や河川の暫定目標値について、PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラムとしている。PFOSは平成22年、PFOAは令和3年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。
群馬大の鯉淵典之副学長(環境生理学)は「人体にどういう影響があるのか、実際には作用メカニズムが分かっていないのが現状」とした上で、国の水道水の調査について、「重要なのは高濃度の汚染源を特定することと、数値を集め公開して国民の信用を得ることだ」と指摘。住民らに対しては、「水道水のPFASは活性炭やフィルターで対応できる。皮膚からは吸収されないから、風呂や洗い物に利用しても問題はない。パニックにならず正確な情報に基づいて恐れるべきだ」と説明する。
使用済み活性炭から地下水混入か
「非常に高濃度で驚いたし、健康に影響はあるだろうと思った」。岡山県吉備中央町で昨年発足した住民団体の小倉博司代表は、そう振り返る。
昨年10月、同町の円城浄水場で、PFOSとPFOAが国の暫定目標値を大きく超える1リットル当たり1400ナノグラム検出されたことが判明した。町は同浄水場の給水区域の住民(522世帯約千人)に使用制限を呼びかけ、給水車などによる配水を実施した。
岡山県が汚染源究明のため取水源のダムの上流地域を調査したところ、山中の資材置き場で約600袋の使用済み活性炭を発見。この土壌からも高濃度のPFOSとPFOAが検出され、袋の破れなどから汚染が土壌に浸透し地下水に混入したと考えられている。
町は取水源のダムを変更するなどして数値を改善させ、昨年11月に飲用制限を解除した。
給水区域の住民には不安が広がった。一部の住民が専門家に依頼して独自の血液検査を実施したところ、PFASの血中濃度が、健康リスクが高まるとされる値を超過した。
町は今年6月、公費で行う希望者の血液検査の概要を発表。山本雅則町長は取材に対し、「国は暫定目標値を設定した令和2年になぜ水道水の全国調査を実施しなかったのか。想像だにしなかった原因で多くの町民が被害を受けた」とした。
地下水を飲用しないよう呼びかけ
一方環境省は今年3月、38都道府県で行った河川や地下水などの調査結果を公表。合計が最も高かったのは大阪府摂津市の地下水で、1リットル当たり2万1千ナノグラムだった。
摂津市は市内の地下水が飲用されていないことを確認。「引き続き地下水は飲まないように呼びかける」といい、水道水は基準値以下だとして、現段階では市民の健康調査は予定していない。
検出地点周辺にある民間事業所から漏れ出したとみられ、同事業所が遮水壁を設置したり浄化設備を増強したりなどの対策に取り組んでいる。市の担当者は「PFASの除去や規制など、具体的な対応や法整備がまったく定まっていない」とし、国の対応への困惑を漏らした。
「規制遅れる日本、複数回調査を」小泉昭夫・京大名誉教授
PFAS規制に関して日本は先進国では最も遅れている。15年ほど前から環境省は小さな調査を続けてきたが、有効な手は打ってこなかった。
慣習として日本では毒性や病気との因果関係が明らかになってから規制値を設定する。PFASは汎用(はんよう)性が高いだけでなく、半導体など先端技術に使用されるため、経済産業省や企業に配慮したのかもしれない。
だが、人体に蓄積しない代替品の開発は、国内外で進んできている。米国では今年4月、代表的物質であるPFOAとPFOSを有害物質に指定し、厳格な規制値を設定した。世界保健機関(WHO)は昨年、PFOAを4段階ある分類で一番高い「発がん性がある」とするなど科学的根拠も集まってきている。
政府の調査は、丁寧に行ってほしい。例えば、水源が渇水であれば高濃度になる。水量がどういう状況か、活性炭の交換時期はいつだったかなどの条件次第で数値は揺れ動く。結果の正当さを確保するために、調査は複数回にわたって行い、数値が高ければ、住民の健康調査も行うべきだ。
(和田基宏、五十嵐一、格清政典)
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