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パネルは中国生産、国内最大メガソーラー着工 長崎・宇久島、事業者「有人国境離島守る」

産経ニュース / 2024年6月12日 11時16分

長崎県の五島列島・宇久島(うくじま)と寺島(いずれも佐世保市)で来週、国内最大の太陽光発電所(メガソーラー)が本格着工する。完成すれば両島の面積の1割が中国で生産された太陽光パネルに覆われる。事業を主導する九電工(本社・福岡市)の木下大執行役員(60)は取材に対し、両島が国の「特定有人国境離島」に指定されており、「尖閣諸島のように無人島化しないよう、太陽光発電事業で島を守る決意だ」などと話した。

つばきの木から

事業は「宇久島メガソーラーパーク」。京セラ(本社・京都市)や九電工などが出資する事業目的会社が約2千億円を投じ、2025年末の運転開始を目指す。発電全量を九州電力へ売電、国の固定価格買い取り制度により1キロワット時40円の最高額で2040年まで買い取られる。

太陽光パネルの数は152万1520枚に上り、京セラによると、すべて中国にある京セラの工場で生産される。

地元では景観の悪化や土砂崩れの発生を懸念する声も上がるが、木下氏は「島は人口減少が進み、地権者の離島や高齢化に伴い耕作放棄地が拡大している。土地の荒廃による土砂崩れなども見られ、保安林を構成する松は松くい虫で壊滅状態となっている」と説明。

「発電所の事業用地は水路を整備するほか、ツバキの植樹なども計画している。作られた緑ではあるが、荒れ地のまま放置するよりはよいのではないかと考えている」と話し、こう続けた。

「われわれの事業目的会社は、会社をベースに雇用や産業面で地域貢献させていただいている。一般的な投資家の事業目的会社とは、ちょっと事情が違うかなと考えている」

事業者が牧草育てる

宇久島は五島列島の北端に位置する。佐世保市宇久行政センターによると、島の人口は今年3月末時点で1747人、平均年齢は約60歳。

木下氏は「皆さん高齢化で島を出て、息子や孫が住む九州本土へ移っていく。年間60~70人のペースで減っており、10年後には半分近くまで減る可能性もある」と指摘する。

隣の寺島は、かつては人口も800人おり、遊郭の建物も残るというが、現在は人口12人、平均年齢約89歳。木下氏が訪ねると、「イノシシを何とかしてほしい」と頼まれたという。畑を荒らすだけでなく、家の座敷にまで入ってくるため「家を守ってほしい」という依頼だった。事業目的会社は集落全体をイノシシ柵で囲ったという。

島の基幹産業は漁業と畜産業。畜産は高級黒毛和牛になる子牛の繁殖だが、15年前に165戸あった畜産農家は2月末時点で63戸まで減り、繁殖牛は約1600頭から1092頭に減少した。島内にあった牛の市場は2020年8月、九州本土の平戸市の家畜市場へ統合された。

事業目的会社は太陽光パネルを置く面積約2・8平方キロのうち、約1平方キロは牧草地の上に支柱を組んでパネルを置く「営農型」発電とし、島外から来た若者を雇用して牧草を育て始めている。

木下氏は「宇久島の牛は、ミネラルをたっぷり含んだ潮風に打たれた草を食べて育つので、高く売れるという話もあって、畜産農家を支援しようと牧草を育てることにした」と説明。将来的には会社が牛を飼うことも考えているという。

尖閣・竹島の経験

宇久島と寺島はいずれも、わが国の領海や排他的経済水域(EEZ)の保全のため全国に71島ある「特定有人国境離島」に指定されている。71島のうち40島は長崎県内にある。

朝鮮半島や中国大陸に近く、古くは遣隋使や遣唐使の寄港地だった。現在は島の海岸へ半島や大陸からのごみが大量に流れ着く。

木下氏は「私は3年ほど前、島に1年間住んだが、大陸との近さを実感した。わが国の領海、領土を守る上で、有人国境離島の地域社会を維持することがいかに重要か、ひしひしと感じた」という。

「宇久島が有人であることの重要性は、尖閣諸島や竹島の経験から明らか。いったん無人になってしまうと、所有権や使用権を主張することの根拠が希薄になってしまう」

事業目的会社は現在、島の漁業者に対して高騰している燃料費の支援、畜産農家には同社が育てた牧草を低価格で提供するなどしている。メガソーラーの運転開始後は、売電収入から振興基金やふるさと納税を通じて、島へ財政支援するとしている。

木下氏は「私たちは工事期間中だけの短期的なものでなく、30年間という事業期間にわたり、このような取り組みを進めていく覚悟だ」と話す。

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