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壇ノ浦の戦いで失われた神器を捜す壮大な物語 玉岡かおるさん新刊「さまよえる神剣」

産経ニュース / 2024年6月23日 12時0分

玉岡かおるさん(須谷友郁撮影)

皇位継承のシンボル「三種の神器」。そのうちの一つ「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」は1185年の壇ノ浦の戦いで、当時のものが海に沈んだとされる。しかし、本当はどこかにある-。作家、玉岡かおるさんの新刊小説「さまよえる神剣(けん)」(新潮社)は、失われた神剣を捜す壮大な物語だ。四国の山中などに残る平家の落人伝説を題材に、日本史の謎に迫っている。

不思議に思っていた

平家が滅亡した壇ノ浦の戦い。平清盛の後妻である二位の尼は覚悟を決め、まだ幼い孫の安徳天皇を抱いて、海に身を投げた。三種の神器の神剣も海に沈み、行方不明のままだ。戦いの後に何人もの海女が動員され、海を捜索したが発見には至っていない。

平家一門の栄枯盛衰を伝える「平家物語」を幼い頃から読んでいた玉岡さんにとって、失われた神剣は「子供の頃からずっと不思議に思っていた」と語る。

物語の時代は平家滅亡後の鎌倉期。承久の乱(1221年)で鎌倉幕府に敗れ、隠岐島に流される後鳥羽上皇は、この悲運は皇位継承に欠かせない三種の神器がないまま即位したせいだと苦悩する。上皇の寵姫から謎めいた使命を受けた若武者の有綱は、真の使命は神剣を捜すことだと理解し、備前の刀工や大三島の幼い巫女(みこ)とあてのない旅に出る。

「後鳥羽上皇は、神剣さえあれば、というコンプレックスのような気持ちがとても強かったのではないか、というのが私なりの解釈です」

日本の行く末

入水した安徳天皇は替え玉で、生き延びているという伝承が南西諸島の鬼界が島、玄界灘の対馬、そして四国などに残っている。

有綱は伝承について思案を重ねながら、四国潜伏説が有力と考えた。四国は源平合戦の舞台となった瀬戸内のどこからでも上陸できる上、峻険な四国山地が身を隠すのに適しているからだ。仲間と一緒に讃岐屋島、阿波祖谷渓へ分け入り、たどり着いた土佐の山中には、安徳天皇を擁した一行の痕跡が残され―。

有綱は神剣が日本の行く末のためにも必要だという信念で神剣を捜す。玉岡さんは「この国の平和の意味、自分のなすべき役割といったものを見つけていく成長物語、ビルドゥングスロマンにしたかった」と明かした。

人々のノスタルジー

これまで女性を主人公に数多くの傑作を生み出してきた玉岡さんにとって、今作は若い男性を主人公にした珍しい作品だ。女性はどうしても時代の制約を受けてしまうが、若い男性を主人公にすることで自由に動かすことができたという。「有綱が、私の想像力を託して存分に走ってくれた気がします」

平氏から源氏に政権が移ると、政治の中枢も貴族文化の色濃い京から東国の鎌倉へと移り、本格的な武家政権が誕生した。玉岡さんは「武力中心の社会へと価値観が大きく変化した転換期だった」と語る。

西日本を中心に安徳天皇の墓や神剣の伝承が残ることについて、「日本人が安徳天皇を死なせたがらなかったのだろうし、武力中心の世界になる前の、美しい感性の時代へのノスタルジーがあるのだと思います」と指摘する。

安徳天皇とともに、三種の神器の神剣が波間に消えた歴史の事件は、時が流れても悲しく切ない記憶として日本人の心に刻まれている。その世界観を壮大な冒険物語の中に描き出した。玉岡さんは「作家として、一つ大きな仕事ができたかなと思います」と語った。(横山由紀子)

たまおか・かおる

昭和31年、兵庫県三木市生まれ。神戸女学院大卒。平成元年に「夢食い魚のブルー・グッドバイ」でデビュー。20年に「お家さん」で織田作之助賞。令和4年、「帆神 北前船を馳せた男・工楽松右衛門」で新田次郎文学賞、舟橋聖一文学賞をそれぞれ受賞。近著に「われ去りしとも美は朽ちず」「春いちばん 賀川豊彦の妻ハルのはるかな旅路」。同県加古川市在住。

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