ひめゆり学徒隊を率いた「沖縄のナイチンゲール」 壕の実相・沖縄戦79年(下)
産経ニュース / 2024年6月23日 20時21分
沖縄陸軍病院の看護婦長に志願し、大戦末期に始まった沖縄戦で「ひめゆり学徒隊」を率いて負傷兵の看護に献身した女性がいる。後に「沖縄のナイチンゲール」と称される真玉橋(まだんばし)ノブ(1918~2004年)だ。
「27歳で沖縄戦を経験し、戦後復興と看護の近代化に導いた功績は、残念ながら歴史に埋もれたまま。没後20年を機にさらなる顕彰に努めたい」
ノブの姪孫(てっそん)で、真玉橋ノブ研究所(那覇市)代表理事の松岡由香子さん(51)はこう語る。
ノブの功績を絵本「すくぶん」にまとめ、物語として伝承している松岡さんによると、ノブは昭和10年に沖縄県立第一高等女学校を卒業。「女性の私でも、生まれた国や誰かの役に立ちたい」と看護の道を志し、日本赤十字社の救護看護婦養成所に入所した。
21歳のときに福岡の小倉陸軍病院に召集された。日中戦争が勃発し、中国全土から負傷兵が運ばれてくる中、不眠不休で看護に尽くし、18年に郷里の沖縄・首里に戻った。母校の衛生婦兼教授嘱託として後進に救急法などを指導。この教え子たちが、後のひめゆり学徒隊であった。
米軍の沖縄上陸が目前に迫った20年3月24日、15~19歳の女学生222人が教師18人に引率されて看護補助要員として動員された。ノブは家族に別れを告げ、教え子たちが動員された陸軍病院勤務を志願。内科から改称された第二外科の看護婦長に就任した。
沖縄陸軍病院は第32軍野戦築城部隊の指導で那覇近郊の南風原の森に築かれた横穴壕群。その数、約30に上る。第二外科の中心的な施設だった20号壕は平成6年から発掘調査が行われ、20年から一般公開されている。
戸板を渡しただけの簡素な2段ベッド。昭和20年4月1日、米軍が沖縄本島に上陸すると、壕に運び込まれる負傷兵は日ごとに増えていった。
傷口には蛆がわき、包帯を交換しても、数日するとまた新たな蛆がわく。壕内は明かりも不足。ウミや汚物の臭いなどが充満する劣悪な環境だった。ノブは昼夜を分かたず手当てを続け、ひめゆり学徒隊の教え子らを励ましたという。
同年5月25日、第32軍司令部は陸軍病院に本島南部・摩文仁(糸満市)へ撤退を命じる。重傷患者はそのまま壕に残された。ノブやひめゆり学徒隊は負傷兵を担いで本島南部の壕へ移動。6月18日には病院に解散命令が出された。米軍に壕を取り囲まれる中、ノブは同僚の看護婦とともに「伝令に行きます」と志願。射撃の雨をよけながら、ほふく前進で隣の壕まで向かった、と後にノブが記している。
捕虜収容所で看護を手伝っていたノブは孤児院に勤務。戦後は米軍が仮設の病院を建てると看護婦長に任命され、米公衆衛生院看護顧問のワニタ・ワーターワースらとともに、沖縄の看護の再建と人材育成に尽力した。
昭和60年、沖縄県出身者として初めて看護の世界的栄誉、フローレンス・ナイチンゲール記章を受章したノブは「戦渦に散ったひめゆりの乙女たちと、仲間の医師や看護婦たちへささげる」と語った。
沖縄の島言葉で使命を意味する「すくぶん(職分)」。松岡さんの夫で、真玉橋ノブ研究所の事務局長を務める良幸さん(51)は「ノブは祖国に尽くしたいと従軍看護婦の道を選び、すくぶんを全うした。そういう沖縄の女性がいたということを知ってほしい」と語り、こう続けた。
「戦後80年に向け、沖縄と本土を分断するような歴史教育を見直していきたい」
(大竹直樹)
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