女性活躍の先進地「原爆以前」の軍都・広島に光当てる 女子大生5人が研究成果を書籍化
産経ニュース / 2025年2月6日 11時0分
原爆が投下される以前の広島はどうだったのか-。繁栄を誇った明治期に着目した安田女子大(広島市安佐南区)の日本政治史ゼミに所属する4年生5人による卒業論文が、「軍都広島の形成」のタイトルで2月11日、書籍化(錦正社)される。終戦直前の強烈かつ悲惨な記憶のあまり、見過ごされがちな史実と向き合い、戦後80年を迎える日本人に新たな視座を与える。
遠い過去とも連続している
壊滅した街、惨禍を乗り越えた人々の歩み…。被爆80年の今年、世界の視線が注がれるのは、人類史上初めて原爆が投下された被爆地としての「ヒロシマ」だ。一方で、広島には軍都としての裏面史が存在する。
日清戦争(明治27~28年)では、天皇をトップとする日本軍の最高統帥機関「大本営」が置かれ、一時、わが国の首都機能を有した。その後も陸軍の一大拠点として栄えた。
「今は近い過去だけでなく、遠い過去とも連続している」と話すのは、編者を務めたゼミ主宰の竹本知行教授(政治学)。未来の広島を語る上でも、近代への深い理解が欠かせないという。
そこで、「原爆以前」の都市形成史をたどろうというのが5人の研究であり、同書の狙いだ。全5章で構成され、鉄道▽水道▽防疫▽陸軍糧秣支廠(りょうまつししょう)▽陸軍被服支廠-の各テーマを田辺響さん、下道真結さん、長安菜摘実さん、田村愛美さん、隅原千尋さん=いずれも(22)=が1章ずつ担当。2年がかりで独創性が光る論文に仕上げた。
労働環境・市民生活向上を後押し
例えば、先の大戦末期まで軍服などを製造していた被服支廠。広島市に現存するのは最大級の被爆建物として知られる倉庫群だが「(被服支廠は)組織として福利厚生が整っており、労働環境の先進的な職場」(隅原さん)だったと考えられるという。
民間と比べて平均賃金は高く、大正10年には、診療所と保育所も設置された。市営の託児所が整備され始めたのは広島の被服支廠に遅れること3年後。昭和初期に発生した福島紡績福山工場(広島県福山市)の争議では、女性工員が労働環境改善を訴え、嘆願書に託児所設置を盛り込むも、会社に回答を拒否される始末だった。
そうした経緯からも隅原さんは「いかに(被服支廠が)女工の立場に配慮していたかが分かる」と指摘する。戦中の昭和18年には保育施設数が全国5位に。被服支廠が労働環境の向上と改善を後押しし、女性の社会進出の原動力になったと結ぶ。
執筆者の一人、田村さんによれば、兵士らの食料調達(民間からの買い上げや缶詰製造)などを担った糧秣支廠でも、女性の就労や労働者の収入の安定を下支えた。軍関連に加え、一般市場に出る商品の品質検査や研究も行われたため、市民の健康増進につながった。
大正12年の関東大震災では、国家として大規模災害に対する意識や備えが希薄かつ脆弱(ぜいじゃく)だった中で、糧秣支廠から被災地に保存食が大量に送られ「広島発の共助の一端をうかがい知れる」(田村さん)。
大本営が置かれる要因となった鉄道の章では、日清戦争を機に、急速に都市化が進んだ県内の鉄道網について詳述。水道や防疫の章では、軍都ゆえにインフラ整備や公衆衛生の確立に寄与し、現在に連なる市民生活の基盤を作ったと紹介した。
極端な反戦平和論が影落とす
戦前について、過酷な労働条件下で国家のために働くというイメージが強かったと明かす隅原さんは「研究を通して広島が女性活躍の先進地だと分かった。平和教育の中で以前は軍施設が広島にあってはいけなかったのでは、と思っていたが、市民生活の観点から新たにとらえられたのは大きな収穫」と受け止めた。
軍都だったために米軍による原爆投下の標的にされたとされ、その歴史は戦後80年もの間、抑止概念を無視した極端な反戦平和論とともに広島に暗い影をも落としてきた。
軍都広島の「隠れた一面」を掘り起こした今回の研究。竹本氏は「原爆投下を起点に、現在の広島が形作られたわけではない。当時の人々の営みを『軍需産業=悪』の中にほうり込むのではなく、本書を通して総天然色だった過去にも目を向けてもらえれば」と話す。(矢田幸己)
◇
初版が出る2月11日には、広島市中区の広島県民文化センターで開かれる「建国を祝う集い」で5人が研究成果を披露する。午後1時開場、入場無料。問い合わせは建国記念の日奉祝委員会(082・831・6205)
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