密林に空を見つめたままの日本軍の砲や戦車…戦後80年、傷跡残る激戦地・ペリリュー島
産経ニュース / 2025年1月30日 14時0分
日本の南3千キロあまりの西太平洋に浮かぶパラオ。美しいサンゴ礁に囲まれた数百もの群島からなり、有数のダイビングスポットとして観光客が訪れる地だ。一方で、かつては日本の委任統治領で先の大戦の激戦地としても知られる。そのうちの一つ、ペリリュー島では戦後80年を迎える今も戦争の跡が残っている。
《ペリリューへようこそ》
島に近づくと、波止場の大きな看板に英語とともに書かれた日本語での歓迎の言葉が飛び込んできた。船酔いに見舞われ、落ち込んでいた心が少しほころぶ。
日本統治時代、南洋庁が置かれたコロール島の南西約50キロにあるペリリュー島。スピードボートでは1時間あまりだが、この日は両島を結ぶ定期船を利用したため3時間を要した。
船の大部分を占めるのは、食糧などが入った段ボールや家具、子供用の自転車などの荷物。乗客は空いているスペースに座って食事をしたり、釣りをしたりして過ごし、おおらかな雰囲気が漂っていた。
日本統治時代の名残
南北約10キロ、東西約3キロの島は、美しい海と緑あふれる自然豊かな地。平均気温は年間を通して28度前後と南国そのものの気候だ。日差しが強い分、木陰に入ると海風にさわやかな涼しさを感じることも。
パラオではいまも日本統治時代の名残がうかがえる。日本の名字を持つ日系の住民もいるほか、「ダイジョウブ」「センキョ」などの言葉も使われ、ペリリュー島の売店や州政府の建物は入り口で靴を脱ぐようになっている。
一方で、島では悲壮な歴史に直面する。密林の中を車で走ると、突然視界が大きく開ける。島南部に位置する飛行場の滑走路だ。飛行機ではなく、車で走るのも不思議な気分だが、島の〝幹線道路〟として使われている。
現在は対中国をにらみ米軍が再整備を進めているが、もともとは旧日本軍が建設し、当時その規模から「東洋一」といわれていた。同行する元陸上自衛隊幹部学校戦史教官室長の和泉洋一郎さん(75)は「米国は飛行場を奪うためにペリリュー島に上陸した。この飛行場がなければペリリュー戦はなかった」と説明する。
近くの密林内にある日本海軍航空隊司令部跡。砲弾を受けた跡が生々しく、蔦(つた)が絡まり、木が生えた外観は今にも崩れ落ちそうだ。ほかにも、空を見つめたままの日本軍の砲や戦車、米軍の水陸両用兵員輸送車などが残され、80年前に引き戻されるようだった。
かつて熾烈な持久戦
島南西の米軍上陸地点「オレンジビーチ」。米軍が作戦で使用したコードネームが由来で、昭和19(1944)年9月15日、米軍は上陸を開始した。当初、数日で作戦を終結するとしていたという。
透き通った海。砂浜には波が打ち寄せるが、島はサンゴ礁に囲まれているため、波音がほとんどしない。かつて戦場だったとは思えないほど穏やかな景色が広がっている。
戦況の悪化とともにサイパン島、グアム島が相次いで陥落。和泉さんは「ペリリュー戦は、島嶼(とうしょ)戦で日本軍が持久戦に持ち込む転機となった」と指摘する。
それまで日本軍は海岸線に戦力を集中させたが、ペリリュー島では内陸部にサンゴ礁でできた島の地形を利用した洞窟陣地を構築。補給がない中で粘り強い抵抗を見せた。日本軍の組織的戦闘が終結したのは2カ月以上後の19年11月24日。米軍側にも予想外に大きな損害が出た戦いだった。生き残った日本軍将兵はゲリラ戦を展開。34人がようやく米軍に投降したのは終戦後の22年4月だった。
パラオでの滞在中、島々に囲まれ、青い空が続くエメラルドグリーンの海でダイビングを楽しむ人々の姿を目にした。戦争は終わり、時代は変わった。それでも、歴史が刻まれた地へ多くの日本人に足を運んでほしいと思う。
ペリリュー島 先の大戦で、日米両軍で約2万人の戦死傷者が出た激戦地。平成27年4月には在位中の上皇さまと上皇后さまが慰霊のため訪島された。戦跡巡りは現地旅行会社が開催し、コロール島から日帰りできる1日ツアーが便利。日本からパラオへの直行便はなく、グアムや台湾経由になる。(池田祥子)
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