灰青色の土器「須恵器」からひもとく平安時代の暮らし 八王子・はちはくで企画展
産経ニュース / 2024年10月29日 21時14分
東京・八王子市南部の遺跡「南多摩窯跡群」で出土した土器「須恵器(すえき)」を通じ、平安時代の暮らしをひもとく企画展「窯がつくるくらし-平安時代のしごと-」が、桑都日本遺産センター八王子博物館(はちはく、八王子市)で開催されている。大陸から伝来した焼成技術の恩恵が平安期に貴族から庶民へと広がっていったようすが、忠実に再現されている。
求められた「保水性」
南多摩窯跡群の発掘調査が始まったのは大正12(1923)年で昨年、100年の節目を迎えている。ここで出土するのが須恵器で、古墳時代後期の5世紀ごろに大陸から日本に伝来。それまで国内で主に食器や調理器具として使われていた土師器(はじき)よりも保水性に優れたため、急速に置き換わっていった。
須恵器は山の斜面にトンネル状の窯を作り、土師器よりも高い1千度超で焼き上げる。完成品は灰青色に焼き上がるのが特徴だ。八王子市周辺では9世紀ごろから須恵器の生産が始まったとされている。硬く保水性が高い特性を生かし、食器以外に壺や甕など、水分を多く含むものの保管容器にも転用され、貴族の間で急速に広まった。
当時の貴族と庶民の食卓を再現した展示から、こうした背景をうかがい知ることができる。両者にはもちろん品数や量の差はあるが、大きな違いが「汁物」の有無だ。貴族層の食器には須恵器が使用され、汁物の提供が可能であった。須恵器は時間をかけて貴族から庶民層へと流通していったという。
〝失敗作〟にも着目
展示物の中でもひときわ目を引くのが「灰原(はいばら)」の再現だ。灰原は焼成の際に破損した土器類を窯からかき出す場所で、いわば「須恵器の墓場」でもある。再現展示では須恵器の破片のほかに、赤褐色の器も残されている。貴族が使用する須恵器は完璧な焼き上がりである必要があった。そのため一見焼き上がっているように見えても、十分に焼けていない赤褐色の個体は廃棄されていたという。
企画展に携わった八王子市文化財課の堀部湧子さんは、大河ドラマ「光る君へ」の放映で平安時代の生活が注目されていることに言及。「なかなかここに遺跡があることを紹介する機会がなく、存在を知らない地元の方も多かった」とし、「当時の人々も試行錯誤を重ねてきれいな器を作っていたことを伝えたい」と企画展の狙いを語った。
当時の武蔵国国司の食事を再現した展示や、縄文土器や弥生土器など触り比べができるコーナーも設置されていて、平安時代の生活を感じられる企画となっている。入場無料。展示は11月10日まで。開館は午前10時~午後7時まで。(宮崎秀太)
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