「盆踊りに飛び入り」「聡明でフレンドリー」 関係者が見たご留学時代の陛下の横顔
産経ニュース / 2024年6月22日 11時33分
《何ものにも代えがたい貴重な経験》。昭和58~60年のおよそ2年4カ月間、英オックスフォード大に留学した天皇陛下は著書「テムズとともに」に、その体験をこう、つづられている。当時、英国で交流のあった関係者は「特別扱いを受けることなく、周囲の人々と親しく触れ合われていた」と懐かしみ、天皇としてのご訪英を「誇らしく、感慨深い」と受け止める。
盆踊りの輪に…
「プリンス・ナルヒト」
58年10月15日、オックスフォード大マートン・カレッジで行われた入学式。「陛下は最初、緊張した面持ちだったが、お名前が呼ばれて周囲から歓声が上がると、ニコッとなさって。少しリラックスされたようだった」。フリージャーナリストとして現場にいた加藤節雄さん(83)は、当時をそう振り返る。
加藤さんは陛下のご留学中、たびたび訪問先などに同行取材する機会があり、次第に言葉を交わすようになったという。取材先ではよく雨が降り、陛下から、「加藤さんは、雨男ですか」とユーモアを交えて話しかけられたことも。加藤さんは「皇室は壁があるような感じがしていたが、陛下のお人柄には親しみを感じた」と話す。
最も印象深いのは、帰国前の60年8月、加藤さんと、日本にゆかりのある英国人らが中心となってロンドンの公園で開催した「日英親善夏祭り」に、陛下が「飛び入り参加」されたことだ。和太鼓演奏やカラオケ大会、露店を見て回り、盆踊りの輪に入られる場面も。「日本ではあまり見られない光景だと思うが、その日は一日中、楽しまれていた」(加藤さん)。
英王室に関する取材も重ねてきた加藤さんは、「陛下は留学で、学問だけでなく、英国の生活や習慣、価値観も学ばれた。王室メンバーとの交流にも臨み、21世紀に対応できる皇室の姿を模索された留学でもあったのではないか」と話す。
『普通』の生活を
日本で英語を教えた経験のある英国人らでつくる「三浦按針会」(当時)のスー・ハドソン元会長も、留学中の陛下のお姿を知る一人だ。
初対面は、ロンドン中心部にあるパブの2階でスーさんらが開催した同会の新年会。大使館を通じ、同じ20代で年齢の近かった陛下を招待すると、「ぜひ」と応じられたという。スーさんは、「少しシャイだが、聡明でとてもフレンドリー。何より、周囲の人を大切にされる優しい方だと感じた」と話す。
スーさんは、留学中の陛下の警護を担当していたロジャー・ベーコン氏(故人)とも交流があったといい、「警護官たちも陛下を守りながら、英国でできるだけ一般の人と同じ、普通の生活ができるように心を砕いていた」と明かす。
陛下が帰国後、まとめられた留学記「テムズとともに」は翻訳され、英国でも出版された。スーさんはこの留学記を懐かしく読み、日本での陛下のご活動を注視してきたという。
即位後、天皇として外国賓客接遇に臨まれる陛下のお姿にも報道で触れ、「感銘を受けた」と話すスーさん。国賓としてのご訪英に、「言い表せないほど、感慨深い気持ちがある。ご訪問を通じて、もっと多くの人に陛下のお人柄を知ってほしい」と話している。(緒方優子)
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