1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「ミュー粒子」加速器、令和10年度の本格稼働目指す 世界初 革新的な成果で産業応用も

産経ニュース / 2024年9月3日 19時40分

素粒子「ミュー粒子」の加速に世界で初めて成功した装置=6月5日、茨城県東海村(小野晋史撮影)

物質を構成する最小単位である素粒子の一つ「ミュー粒子」を人工的に加速することに、高エネルギー加速器研究機構などの研究チームが世界で初めて成功した。画期的な顕微鏡の実現や、不完全さが指摘される現代素粒子物理学の標準理論を検証するといった成果が期待できる。加速器としての本格稼働は、茨城県東海村で令和10年度を目指し、米国や欧州、中国などをリードする。

顕微鏡で立体的観察

ミュー粒子は身の回りを飛び交い、毎秒1個は手のひらを通り抜けている。近年では火山やピラミッド、東京電力福島第1原発の原子炉などの内部をエックス線画像のように透視する研究で知られる。ただ、いずれも自然界のミュー粒子を用いるため数が少なく、測定に長時間を要したり、対象が小さいと観察できなかったりする難点があった。

これに対し、加速器ではミュー粒子を大量に生成できるため、顕微鏡と組み合わせれば微小な世界も観察できる。さらに厚さ1ミリ程度まで立体的に見られるという。

高エネ研が加速器に隣接する形で11年に完成を目指す顕微鏡は、画像を連続的に撮影することも可能だ。そのため、電流が流れる半導体や生きた細胞の内部を詳しく調べ、高性能化や創薬につなげるといった産業応用も期待できる。

既存の電子顕微鏡は、ミュー粒子を用いるよりも微小な世界を観察できるが、立体的に見られる厚さではかなわない。高エネ研の永谷幸則特別准教授は「顕微鏡としては世界唯一で、研究開発の幅が大きく広がる」と指摘する。

顕微鏡以外には、トラックが運ぶコンテナを透視して危険物を検知する装置なども開発中だ。

鍵は冷却による制御

一方、ミュー粒子の寿命は数十万分の1秒程度と非常に短く、顕微鏡などで用いるには技術的な困難さがあった。

そこで研究チームは、ミュー粒子の温度を室温まで冷やせば、飛ぶ向きを制御できる点に着目した。今年4月、別の加速器で大量に生成したミュー粒子を特殊なシートで受け止めて冷やし、電気の力で飛ぶ向きをそろえた上でミュー粒子用の加速器に投入。光速の4%まで加速することに成功した。

実験は、高エネ研と日本原子力研究開発機構が共同で運営する大強度陽子加速器施設「J-PARC」(茨城県)で実施。今後は装置を段階的に整備し、光速の94%を目指す。高エネ研の三部勉教授は「最初の加速が一番大変だった。これができれば後は波に乗るように加速できる」と意気込む。

ノーベル賞も視野に

さらに注目されるのが、現代素粒子物理学の基本的な枠組みである標準理論の検証だ。

国内外の研究により、磁力が素粒子に与える影響について、理論値と実際の測定値との間でずれが確認されている。大量に生成したミュー粒子を用いれば測定精度が上がるので、ずれを明確に示せれば標準理論に修正を迫る形となる。ノーベル賞も視野に入る成果で、加速器が本格稼働した直後に測定を始める。(小野晋史)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください