陸の孤島救ったドローン、断水予測するAI…能登地震機に注目される防災テクノロジー
産経ニュース / 2024年12月31日 16時16分
令和6年1月1日に発生した能登半島地震は、地方における災害の課題とともにテクノロジーの進歩による防災・減災の可能性が示される契機となった。特に小型無人機(ドローン)は被災状況の確認や物資輸送に貢献し、災害支援の「ドローン元年」といわれた。水道管破損による断水の長期化などの課題を人工知能(AI)で解決する取り組みも進む。南海トラフ巨大地震が警戒される中、テクノロジーをいかに活用できるかが重要となる。
被災建物内で活躍、飛行に規制も
日本の災害対策が大きく変わるきっかけとなった阪神大震災から30年。ドローンやAIといったテクノロジーが普及したことで、これまでなかった防災・減災への取り組みが可能となっている。
能登では激しい揺れで道路が寸断され、複数の地域が「陸の孤島」となった。救助や支援にはまず被災状況の確認が必要となるが、ヘリコプターは出動に時間がかかり、危険な場所に行くことも難しい。そこで活躍したのがドローンだった。
ドローン運用企業のブルーイノベーション(東京)は1月6日に石川県輪島市に入り、自衛隊と連携して土砂崩れによって孤立した集落に人がいないか捜索を実施。リベラウェア(千葉市)は直径20センチの業界最小クラスの機体を使い、倒壊して人が入れない建物内部の被害状況を確認した。同社の向山卓弥氏は「崩れそうな場所でもドローンなら二次災害のリスクなく捜索できる」と話す。
ただ、制度上の課題も浮き彫りとなった。ドローンは航空法により住宅地などでの飛行に制限があるため、地震発生時も自治体からの要請がなければ動けず、初動の遅れにつながった。ドローンの業界団体「日本UAS産業振興協議会」(JUIDA)の鈴木真二理事長は「防犯に活用する案もあったが、規制の問題で実現しなかった。テクノロジーを生かすには制度も変えていく必要がある」と強調する。
断水リスク高いエリア、AIで特定
一方、水道管などの破損による断水は1カ月経っても4万戸以上で継続し、阪神大震災以上に復旧に時間を要した。水道管の耐震化の遅れや老朽化は全国で問題となっているが、自治体の予算が足りず進んでいないのが実情だ。そこで地震発生時の断水戸数を事前予測できるクボタの新システムが注目されている。
全国約6千件の水道管の腐食調査データと、過去の地震をもとにした被害予測の2種類のAIを活用して導き出す。これにより断水リスクが高いエリアを特定し、優先して耐震化などの工事が可能になる。今年春ごろから全国の自治体向けに提供を開始する予定。
断水時の対策としてはベンチャー、WOTA(東京)の水循環型シャワーが被災地で活躍した。フィルターでの濾過(ろか)や除菌をAIで制御することで約98%の水が再利用可能となり、断水エリアに約100台が提供された。担当者は「今後想定される『国難級災害』では、能登の50~100倍規模の断水人口が発生すると予測されている。この規模に対応できるよう全国に配備を進めたい」と意気込む。
スターリンク活用も費用ネック
能登半島地震と阪神大震災の大きな違いの一つとして、スマートフォンの普及がある。即座に情報にアクセスできるようになった一方で、大規模な地震発生時には回線が不通になる課題がある。
能登地震ではケーブルの切断などが原因で、NTTドコモで最大70%、KDDIで54%、ソフトバンクで45%のエリアの通信に支障が出た。災害情報の収集をスマホに依存する人は増えており、救助の要請にも通信回線は欠かせない。
道路が寸断された中での応急復旧手段として、ソフトバンクは長時間の連続飛行が可能な有線ドローンに無線中継装置を搭載して一部エリアの通信を確保。NTTドコモやKDDIは船上基地局を設置して一部の通信を回復させた。
船上基地局を含め、市役所や避難所の通信確保で使われたのが米宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク」だ。衛星通信なら地震によるケーブルの断線リスクがない。ただ、コストという別の問題がある。
石川県穴水町役場では防災無線を全戸配布し、災害時の情報伝達の手段として活用していたが、能登地震では停電の影響で防災無線が送信できない問題が起きた。このため令和6年8月からスターリンクを導入。避難所など複数拠点への設置を目指すものの、予算の問題で実現できていない。
同町の担当者は「スターリンクと防災無線のどちらかではなく、新旧あわせて複数の手段を用意することが重要だ」と強調している。
新技術の使用ためらうな 室崎益輝・神戸大名誉教授
地球温暖化などの環境や社会の変化の影響を受けて、災害は進化し、激甚化している。防災も進化する必要があり、最先端の科学技術を積極的に取り入れなければならない。
日本でも防災に活用できる優れた技術が多く生み出されているが、最大限活用できていない。既存の法やシステムに従うことを優先して、いざというときに新技術が使えない場面もある。
一方で、2024年の台湾東部沖地震では、発生直後にトルコの捜索隊が台湾に入り、ドローンを使った行方不明者の捜索や被災地の地形把握で活躍した。防災技術は、使うことで、その能力をさらに高めることができる。日本でも、有事の際に新技術を使うことをためらう考えを取り除かなければならない。
国内では防災科学技術研究所で、災害発生時に被害状況やライフライン、被災者の情報を集約して可視化する先進的システムの開発などが進んでいる。こういった技術を活用するための制度づくりが急務で、省庁間の横断的な協力も必要だ。
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