西山女流三冠、女性初「棋士」まであと1勝 女流棋界のパイオニア蛸島女流六段が託す思い
産経ニュース / 2025年1月19日 18時0分
将棋界で女性初のプロ棋士誕生に王手をかける大阪府大阪狭山市出身の西山朋佳女流三冠(29)=白玲・女王・女流王将=の棋士編入試験五番勝負の第5局が22日、大阪府高槻市の関西将棋会館で行われる。「普段の力を十二分に発揮していい結果を出してほしい」。そう語るのは女流棋界のパイオニア、蛸島(たこじま)彰子女流六段(78)。新たな歴史が開かれんとする大勝負を格別の思いで見つめている。
結婚したら家庭に
編入試験五番勝負で2勝を挙げ、22日に勝利すれば女性初の棋士となる西山女流三冠。これまでの編入試験の対局の中でも、宮嶋健太四段(25)に勝利し合格に王手をかけた昨年12月の第4局について、蛸島女流六段は「終盤の踏み込みがとにかく素晴らしかった」と称賛する。
「あと1勝すれば棋士になれる女性が登場し、その瞬間に立ち会えるかもしれない。長生きして本当に良かったなと思う」
しみじみとそう語る蛸島女流六段も、かつてはプロ棋士を目指した一人だ。父の影響で将棋を始め、15歳だった昭和36年には、プロ棋士養成機関「奨励会」に女性で初めて入った。「女の子には負けられない」という風潮が色濃い中、紅一点で奮起したが、41年に結婚を機に退会した。
当時は「結婚したら女性は家庭に」という社会通念が強かった。厳しい戦いの日々が続く奨励会に結婚後も残る選択肢は、自身にも周囲にもなかったという。
女流制度創設
子育てをしながら女性対象の将棋教室の講師などを務めていた49年、男性中心の将棋を女性にも普及する目的で「女流棋士」制度ができた。蛸島女流六段は最初に誕生した女流棋士6人の一人。同年「女流プロ名人位戦」(現女流名人戦)で初代女流名人に、53年創設の「女流王将戦」でも初代女流王将になる。
活躍に刺激されるように女流棋士は増えていく。現役で82人、引退者も含めると100人以上が誕生した。またプロ棋士を目指して奨励会に合格した女性も、これまで21人を数える。西山女流三冠もかつて奨励会に所属した一人だ。
しかし、女性のプロ棋士は誕生していない。令和4年には女流の第一人者、福間香奈女流五冠(32)=清麗・女流王座・女流名人・女流王位・倉敷藤花=が棋士編入試験五番勝負に挑戦したが、ストレートの3連敗で逸した。
編入試験で試験官(対戦相手)となる若手棋士5人は、半年間で上位2人しか棋士になれない奨励会三段リーグを勝ち抜いて間もない。蛸島女流六段は「勢いに乗ったバリバリの若手棋士たちで、男性でも勝つのが大変」と指摘。女性のプロ棋士が生まれない背景には競技人口の差があるとされており、蛸島女流六段はレベルアップはもちろん、層を厚くすることが不可欠だと捉える。
「棋士になりたければ棋士、女流棋士でありたい人は女流棋士として、どんな立場でも男性と対等に戦える実力をつけて強くなってほしい。そして将棋を指し、教え、広め、女性の間で将棋が盛り上がっていくことを期待している」
初の女流棋士として棋界の第一線で活躍したパイオニアは、プロ棋士を目指す西山女流三冠にこんな期待を寄せた。「階段を上っていく先人がいれば、後に続く女性たちの励みとなる」
■将棋のプロ棋士 年齢制限のある棋士養成機関「奨励会」に入り、半年にわたる「三段リーグ」で上位2人に入ればプロの棋士(四段)となる。女流棋士やアマチュアは制度が異なるが、参加可能な公式戦で規定の成績を収めると、棋士編入試験を受験できる。この制度でこれまでにアマチュア男性3人がプロ棋士になった。(横山由紀子)
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