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ほろよい余話 恐怖ふりまく男鹿のナマハゲ、酒のもてなしにはご満悦

産経ニュース / 2025年1月14日 13時0分

松浦すみれさん

昨年末は秋田県男鹿市に滞在した。男鹿半島は雪深い山麓にナマハゲゆかりの真山神社があり、隣接する男鹿真山伝承館で、迫力たっぷりのナマハゲ行事を体験することができた。

ナマハゲ行事は、古くは小正月に行われ、今は大晦日に各集落ごとに行われる行事で、若者らがナマハゲに扮して山から里に降り、各家をたずねて災厄を払い、福を招く来訪神として崇められてきた。

伝承館は、この地方独特の重厚な藁葺き屋根の曲家(まがりや)民家で、真山地区に伝わる一連のしきたりにのっとって、ナマハゲが来る厳かな夜が再現されていた。ほの暗い家内に入ると囲炉裏(いろり)が燻り、蝋燭が灯る仏間の前に通される。着物姿で家主に扮した男性が、土地のなまりでおもむろに語り始めた。

ナマハゲの語源は、冬に囲炉裏で火にあたり続けていると手足にできる火班(ひだこ)のことを「ナモミ」といい、怠け心を戒める「ナモミ剥ぎ」が由来といわれる。

ナマハゲはむやみに家屋に押し入るわけではない。最初に「先立(さきだち)」という先導者が訪ねてきて、家主と挨拶を交わし、ナマハゲを引き入れていいかとお伺いを立てるのだ。

先立役が家主の許可をもらって間もなく、戸口の向こうでウオオーと低いうめき声がとどろきはじめた。突如、ドンドンドン!と四方八方から壁を叩きまわる音が響いて、一気に緊迫感と恐怖が増す。

さっと戸口が開き、2匹のナマハゲが姿を現した。その場で足を踏み鳴らして四股(しこ)を踏み、部屋に入る。「泣く子はいね-が-!」と雄たけびをあげながら、泣き叫ぶ子どもたちに詰め寄って来る。

ひとしきり恐怖を振りまいたナマハゲは、家主に酒肴の膳の前へと促され、再び四股を踏み鳴らして腰を下ろした。

「ナマハゲさん、今年もよう来てくだすった」と、家主が丁重にもてなす。ナマハゲは手に持った台帳を見ながら、この家の嫁や子が怠けていないか、田畑の作柄はどうかと問う「なまはげ問答」が始まった。家主はしきりと酒をすすめてなだめる。ナマハゲも気をよくして酒をあおる。仮面の下に嬉々とした表情が浮かんだ。

その家の無病息災や来福を願いながら、再び子どもらに迫ったナマハゲは、意気揚々と立ち去って行った。

絵と文 松浦すみれ

まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。

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