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「清左衛門地獄池」から湧く名水、名前とは裏腹にくせのないまろやかさ 神奈川・南足柄 行ってみたい 水のある風景

産経ニュース / 2024年8月21日 10時0分

住宅地の細い路地を入ると、赤い鳥居と社が目に入る。鳥居の先に広がる池は澄み渡った水で、底まではっきりとみえる。ところどころ、ゆらゆらとモヤがかかり、ぶくぶくと気泡が浮かび上がっており、豊富な水が湧いているのが分かる。平成の名水百選にも選ばれた、神奈川県南足柄市の「清左衛門地獄池(せいざえもんじごくいけ)」だ。

池に隣接する公園の広場で湧き水をくむことができる。一口飲んでみると、水温は冷たく、滑らかな口当たり。くせのないまろやかな味がする。

水神のお告げを受けた加藤清左衛門という武士が田畑の水源を探していたところ、馬と一緒に湿地にはまって地中に沈んでいったところから水が湧いた、という昔話から名付けられた。どの時代の話かなどは記録に残っていないが、「清左衛門、清左衛門」と呼び掛けると湧き出る水の勢いが増すといった逸話が伝わっている。

清らかな湧水に似つかわしくない「地獄池」という恐ろしい名前となった理由は分かっていない。ただ、その名に違和感を覚えた人はいるようで、明治時代に漢学者が「浮泉の池」と名付けたが地元では定着しなかった。

「地獄池」として愛された湧水は、近隣のコーヒー愛好家らも足しげく通うほどで、地元の酒蔵が新酒の仕込みに利用したこともあるという。

この湧水は、日本の産業にとっても重大な役割を果たしている。富士フイルムはちょうど90年前の昭和9(1934)年、この地域で創業した。映画フィルム産業の国産化を目指す国策会社として、全国の候補地の中から創業の地を選定するにあたり、豊富できれいな水が決め手となった。

現在も、同社の神奈川事業場足柄サイトでは、機器の冷却や洗浄、フィルムの生産にこの湧水を使用している。世界中の若い世代に人気となっているインスタントカメラ「チェキ」シリーズ用の専用フィルムは全世界で唯一、この場所で生産されている。

創業と同時に設立された男子バレーボール部も、平成14年の活動休止までここを拠点としていた。昭和58年度から62年度まで日本リーグで史上初の5連覇を達成するなど、輝かしい成績を残した名選手たちも、地獄のような厳しい練習の合間に、湧水で喉を潤したのだとか。

湧水の源は、箱根火山の外輪山に当たる明神ケ岳(みょうじんがたけ)。全国平均の約2倍の降水量がある箱根に降った雨を、堆積した火山噴出物がスポンジのように蓄え、1日1万3千トンの豊富な湧水につながっているという。(高木克聡)

清左衛門地獄池 神奈川県南足柄市狩野865。散策自由。湧水公園が隣接し、湧水を無料でくむことができる。伊豆箱根鉄道大雄山線「富士フイルム前駅」から徒歩で約20分。車の場合は、東名高速道路大井松田インターチェンジ(IC)から約20分。【問】南足柄市環境課(0465・73・8006)。

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