新幹線を降りてすぐ、たどり着くのは「人の思いが作る島風景」 佐木島(広島県三原市) 島を歩く日本を見る
産経ニュース / 2024年12月20日 9時0分
芸予(げいよ)諸島の佐木島(さぎしま)と小佐木島(こさぎじま)(広島県三原市)は、日本で一番、新幹線の駅から近い島である。三原市内の南約3キロの沖合に佐木島があり、佐木島からわずか250メートルほど先に小佐木島がある。どちらもJR三原駅から徒歩約5分の三原港から船に乗り、15分以内で渡島できる。
2島は、合わせて「双鷺洲(そうろしゅう)」とも呼ばれる。郷土資料『さぎしまの歴史双鷺洲』(山下博巳著)を読むと、天正19(1591)年の古文書に、佐木島は「鷺島」と記され、また江戸時代末期の詩人・梁川星巌(せいがん)が現在の糸崎(三原市)周辺を船遊した際、沖に見える2島の美しさに感動し、漢詩に「双鷺洲」と表現したとある。
周囲約18キロで、人口約600人の佐木島は、農業が盛んな島だ。特に秋から冬にかけては「島内がかんきつの色に染まる」と言われるほど、さまざまなかんきつ類が実る。
郷土資料『写真で見る郷土さぎしま讃歌・今は見られないさぎしまの風景』(同)には、昭和初期から中期にかけての島風景が収められ、山の麓から頂まで一面に広がる段々畑が見られる。この頃は主にサツマイモや除虫菊、麦などを栽培していたそうだ。
新たな島おこし、始動
近年は、人口減少で農家も減り、耕作放棄地の増加が問題となっている。三原観光協会は平成28年、島の活性化のため「鷺島みかんじまプロジェクト」を始動。空き家を活用してカフェや宿の運営支援をしたり、かんきつ類を使ったジャムの商品化と販路開拓をしたり、島の資源を活(い)かす取り組みを進めた。
令和元年には、地元の養鶏ファームと「瀬戸内柑太郎島たまご」の販売も開始。間引いて不要となった青みかんを与え、平飼いで養鶏している。2年には、耕作放棄地の除草目的に、めん羊の飼育に乗り出した。
同協会でコーディネーターとして関わり、プロジェクトを立ち上げた中村華奈子さんは、4年に「株式会社鷺島みかんじま」を設立し、事業を継続させている。「羊がいる島は珍しく、今では島民や観光客に親しまれている。今後は羊毛も活用して島を盛り上げたい」と話す。
他にも、島の有志らが平成28年に桜の名所である須ノ上地区の志呂谷(しろだに)花見園に「道祖神の丘」を整備した。男女の双体道祖神をまつろうと周囲に呼びかけ、年々寄進者が増えている。双体道祖神がずらりと座す光景は珍しく、新たな観光地となった。
島の風景は、その時々で島を思う人たちによって作られていく。桜の季節に再訪したい。
アクセス
佐木島には三原市内からのほか、尾道、小佐木島、因島、生口島-の広島県内各地から船が運航。
小林希
こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後に『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマにしている。これまで世界60カ国、日本の離島は150島を巡った。
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