千年続く伝承の歴史 松山市の「興居島」をつなぐ人々の熱い想い 島を歩く 日本を見る
産経ニュース / 2024年9月20日 9時0分
松山市の高浜港から西へ約2キロ、船でおよそ15分。興居(ごご)島は大小30以上ある忽那(くつな)諸島で2番目に大きく、松山市街から最も近い有人離島だ。島南部には標高282メートルの山、小富士があり、山頂から忽那諸島が織りなす多島景観が一望できる。
かつて、この島々を拠点に忽那水軍が活動していた。一説には平安時代後期、藤原道長の子孫ともいわれる藤原親賢(ちかかた)が島流しになったのを機に興ったとされる。南北朝時代に最盛期を迎えるも、その後衰退し、当時、瀬戸内海で巨大な制海権を握っていた豪族・河野氏の配下に。河野氏の勢力は、ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスが「日本最大の海賊」と称した村上海賊(来島村上家)らを一時は配下に置いたほどであった。
島には河野氏の起源にも絡む、「壺(つぼ)から出てきたお姫さま」の伝説がある。昔、島の漁師が沖で釣りをしていると、大きな壺が流れてきて、拾い上げて割ってみると中から和気姫(わけひめ)と名乗る美しい娘が出てきて大切に育てることにした-というものだ。その和気姫が、孝霊天皇の皇子・伊予皇子との間に生んだ小千御子(おちのみこ)は河野氏の祖だとの説もある。
和気姫が暮らした興居島は、元禄12(1699)年まで「母居島」と呼ばれたそうだ。島中央の船越という集落には、和気比売命(わけひめのみこと)を御祭神とする船越和気比売神社がある。毎年10月の秋祭りでは、愛媛県の無形民俗文化財に指定されている「船踊り」が奉納される。島の伝承によると、忽那水軍が帰還した際、船上から浜で待つ島民に向け、戦いの様子を身ぶり手ぶりで演じて見せたのが始まりとされ、約1千年の歴史を持つそうだ。現在も島民による保存会があり、文化が継承されている。
一方で令和2年、フェリーが着く由良地区の港の目の前に、コーヒー店「cotton john coffee」ができた。島外からの移住者である大本直樹さん夫婦が自家焙煎(ばいせん)したコーヒーを提供している。観光客や地元の人たちが次々と店に寄っては、自然と交流が生まれ、会話が弾んでいく。
かつて7千人ほどが暮らした興居島の人口は、約1千人にまで減少した。大本さんは、「松山市出身で、子供の頃から興居島に来ていた。島の人もどんどんやってくれと応援してくれる。地元を盛り上げていきたい」と話す。
故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る。長い歴史を知ればこそ、今を生きる人の想いが輝いて見える。
アクセス
松山市内の高浜港から興居島の由良港、泊港まで船が運航。
小林希
こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後に『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマにしている。これまで世界60カ国、日本の離島は150島を巡った。
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