1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

周囲約10キロに残る神話の世界で自然と歴史を見る 沼島(兵庫県南あわじ市) 島を歩く 日本を見る

産経ニュース / 2024年10月18日 9時10分

空に突端を向けて、堂々とした風格で海に立つ上立神(かみたてがみ)岩-。

淡路島の南約4・6キロに位置する沼島(ぬしま)を象徴する巨岩で、約30メートルの高さがある。矛先のように見える形状から、地元では、『古事記』の「国生み神話」で伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)の二柱が混沌(こんとん)とした大海原をかき回したときに使った「天沼矛(あめのぬぼこ)」とする伝承がある。

神話では、その矛先から滴り落ちた塩の雫(しずく)が固まってできた「おのころ島」に二柱が降り立ち、「国生み」をされて最初に淡路島が誕生する。

沼島には、『日本書紀』にも記述のある海の民「海人(あま)」の長の墓と推察される沼島古墳がある。海人は淡路島とその周辺を拠点にし、高度な航海技術を持ち、瀬戸内海沿岸をはじめ、朝鮮半島などとも交流をしてきた。土器を用いた製塩を生業(なりわい)とし、その痕跡が残る古墳時代の遺跡も島内に存在することから、〝海人の島〟であったことがわかっている。

古くから御神体とされてきた「おのころ山」には、二柱が御祭神の自凝(おのころ)神社が鎮座する。こうしたことから、沼島は「国生み神話」に登場する「おのころ島」の有力候補地ではないかといわれる。

長年、淡路島の遺跡発掘に携わる淡路市教育委員会の伊藤宏幸さんは、「沼島は特別な島。淡路島と沼島の間を中央構造線(断層)が通り、沼島は三波川(さんばがわ)変成帯に属する結晶片岩の島。淡路島にはない岩石や地形、地質構造が見られる。古代人も沼島の奇岩などを見て、神聖視していたのではないか」と見解を語る。

結晶片岩は、島内の弁財天神社の石垣や神宮寺の庭石、集落の石塀や階段などに使われている。平成6年には、島内の地層から「1億年前の地球のしわ」ともいわれる「さや状褶曲(じょうしゅうきょく)」が発見された。地殻変動の影響で地層が同心円状に曲がってできた岩で、世界的にも珍しい。

沼島の主産業は夏場の鱧(はも)をはじめとする漁業だが、近年、漁師が漁船で沼島を一周する「沼島おのころクルーズ」を運航し、船上から上立神岩やさや状褶曲、洞窟の穴などを観光客に案内している。

以前、沼島を訪れたときは、あいにくの荒天でクルーズが欠航となり、展望台から上立神岩を眺望した。実は上立神岩の南に、中央に穴の開いた下立神岩(現在は崩落)、その間に平バエ岩がある。「これについても、上立神岩を伊弉諾尊、下立神岩を伊弉冉尊に見立て、平バエ岩を二柱が最初に建てた神殿の八尋殿(やひろどの)とする伝承がある」と伊藤さん。

周囲約10キロの小さな島で、神話にまつわる数々の伝承が残るのは、島の人たちがそれを信じ、連綿と承継してきたからだろう。これこそが歴史のロマンだと感じる。

アクセス

淡路島の土生港から定期船が運航。

小林希

こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後に『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマにしている。これまで世界60カ国、日本の離島は150島を巡った。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください