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関東管領山内上杉憲政陣城の伝承 「柏原城」(前編) 山城ガールむつみ 埼玉のお城出陣のススメ

産経ニュース / 2024年10月5日 14時0分

江戸時代に17万石を誇った川越藩の本丸御殿が現存している=埼玉県川越市

JR川越線笠幡駅の南方約4キロにある柏原城(狭山市)は、戦国史に残る有名な戦い「川越合戦」に関係する重要な城で、「城山砦」ともよばれています。東側を流れる入間川に形成された河岸段丘上に築かれていて、高低差を利用した防御性の高さが見て取れます。周辺に広がる畑や民家を眺めていると、ここが歴史的に重要な遺跡だということがあまり想像できませんが、実はとても面白い歴史のストーリーが眠る貴重な城なのです。

現地に残る遺構は戦国時代のものか

柏原城には、鎌倉時代の武将柏原太郎の館跡との伝承や、14世紀中頃に鎌倉公方足利基氏が在陣した入間御所を守るための城との伝承もありますが、現地に残る遺構は戦国時代のものと思われます。また、江戸時代後期に編纂(へんさん)された『新編武蔵風土記稿』によると、当時、柏原城は「上杉砦」とよばれていたとされています。この「上杉砦」という名称は、どのような歴史にちなむのでしょうか。

天文14(1545)年、扇谷上杉朝定は北条氏に奪われた川越城を取り戻すため、関東管領山内上杉憲政、古河公方足利晴氏とともに北条氏きっての勇将北条綱成らが守る川越城を包囲。攻城側の連合軍は、その数なんと8万とも伝わります。川越城は扇谷上杉氏のかつての本城のため、上杉氏としては何が何でも奪い返す必要があったのです。このような、関東の勢力構図を左右する重要な戦いにおいて、関東管領山内上杉憲政が陣城として築いたのが、まさにここ柏原城だと伝わっているのです。古くから土地に残る「上杉砦」という名称は、この伝承にちなむと考えられます。

連合軍の大軍に攻め囲まれた川越城の北条綱成らは籠城戦を繰り広げ、両者は半年にわたりにらみ合いを続けましたが、翌4月に北条氏当主の北条氏康が出陣し、雌雄を決する「川越合戦」が起き、北条氏の大勝利に終わります。憲政と晴氏はなんとか戦場を脱出し、それぞれ平井城(群馬県藤岡市)、古河城(茨城県古河市)へと敗走。朝定は討死して扇谷上杉家は滅亡しました。この合戦は、北条氏の関東支配を決定付ける結果となり、このような歴史のターニングポイントとなった戦いの、主役の一人ともいえる憲政が当城に在陣していたかと思うと、歴史ロマンに胸が熱くなります。

当時の緊迫した状況を感じられる

柏原城は、入間川を挟んで川越城の南西約10キロに位置し、この位置関係からも当時の緊迫した状況を感じることができます。また、入間川を挟んで東約3キロには、天文6(1537)年に、当時扇谷上杉氏の城だった川越城攻めに向かった北条氏綱と、それを迎え撃つ扇谷上杉軍が戦った三ツ木原古戦場もあります。この戦いで北条氏が勝利し、以降、川越城は北条方の城になったわけですが、川越城をめぐる戦いにおいて、柏原城のすぐ近くで攻防戦が起きていることから、この付近は川越城を攻める際の重要地だったと思われ、近くに入間川の渡河点があった可能性も考えられます。ちなみに、古くは新田義貞の鎌倉攻めの軍勢も三ツ木原で合戦に及ぶなど、幾度となくこの地域は戦いの舞台になっています。

このように柏原城は、戦国時代の関東を揺るがした川越合戦に関係する城であり、現地にはその歴史を物語るように、土塁、空堀などの遺構が良好に残っています。地域にひっそりと残る城に、まさかこのような面白い歴史が埋もれているのかと感動を覚えずにはいられません。周辺に広がるのどかな景色を眺め、この近辺に駐屯した大軍勢を想像して思いをはせるのも、柏原城の楽しみ方のひとつです。

(中世においては「河越城」と記される場合が多いですが、今回は「川越城」で統一しています)

川越城をめぐっては、何度も戦いが繰り広げられたため、周辺は断続的にかなり緊迫した状況に包まれていたと思われます。上杉氏の内部抗争においては、山内上杉氏が明応6(1497)年に川越城西方4キロの距離に上戸陣を築いて扇谷上杉氏を攻め立てました。この上戸陣の北方約3キロの下広谷地区には、方形に堀と土塁を巡らせた大堀山城などの城郭が異常なほど密集しています。これらは、上戸陣に付随する山内上杉氏方の陣とも考えられますし、また、川越城を北条氏に奪われた扇谷上杉氏が奪回のために何度も川越城を攻めた際、これらを陣所とした可能性も考えられます。はたまた、川越合戦において、攻城方の大軍が駐屯したかもしれません。柏原城を訪れるときには、川越城をめぐる幾多の戦いの舞台を一緒に回ってみてください。より、地域の歴史を肌で感じることができます。

山城ガールむつみ

歴史&山城ナビゲーター。歴史コンサルタント。歴×トキ(レキトキ)代表、三浦一族研究会副会長、一般社団法人城組副理事、千葉城郭保存活用会副代表、千葉県匝瑳市シティ・アンバサダーなど。歴史やお城をテーマにしたイベントやツアー、講座を全国各地で多数手がける。県内でも歴史と城を使った町おこし、地域活性化の取り組みや、各地の歴史発信のための御城印発行プロデュースなどを行っている。(https://www.rekitoki.com/)

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