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ハリのある風合いが持ち味の遠州織物 伝統の技をつなぎませんか? 初の就業体験が盛況 くらしと工芸

産経ニュース / 2024年10月11日 8時10分

染め上がった遠州織物の生地の裁断を体験するインターン参加者=浜松市の二橋染工場(田中万紀撮影)

さらりとしたハリのある風合いが持ち味の遠州織物。江戸時代から生産が続く静岡県西部の工芸品で、綿や麻、絹、羊毛など多彩な素材でさまざまな生地が織られてきた。そんな伝統工芸の現場で9月中旬、インターンシップ(就業体験)が初開催された。一般に門戸を開く珍しい試みだ。

鈍色(にびいろ)の重い扉を押し開けると、ガタゴト、ガタゴト、規則的な機械音が耳をつんざいた。同県磐田市にある丸三織物は、布を織る前に、経(たて)糸を整える準備工程「整経」の専門工場を持つ、数少ない事業者だ。

遠州織物の特徴は、撚糸(ねんし)、糸染め、整経、糊(のり)付け、織り、染色、加工-と工程ごとに、特化して技を磨いた専門の職人がいること。なかでも糸を均等に並べ、張り具合を調整する整経には、熟練の丁寧な手作業が欠かせない。

手作業欠かせぬ「整経」 一人前になるには10年

糸を巻き取るドラムの前で、女性職人が数十本の麻糸を手のひらにかざす。1本1本、目と指先の感覚で切れや傷がないか確かめ、張り具合を調整し、ドラムの上に均等に並べる。その手つきはまるで操り人形のように規則的。120センチ幅の生地を織るために、3000本の経糸を整然と並べるのだという。

同社が得意とする麻糸は、繊維の細さにむらがあり、切れやすい。一本でも糸が絡まると、一からやり直し。絡まないよう切れないよう、糸の張り具合と機械の調子を加減する。長年の経験だけがものをいう繊細極まる作業だ。「簡単に見えるかもしれないが、一人前になるには10年はかかる。僕も最初の2、3年は怒られてばかりでね」とは、整経一筋30年という同社の加藤寿佳(ひさよし)社長(53)。

整然とそろえられた麻糸が何百本、何千本と合わさって大きなドラムに巻かれていく様子は圧巻で、職人の見事な指使いから目が離せなかった。

一般的な量産品とは違い、遠州織物は糸が職人たちの手から手へと渡りながら丹念に紡がれ、時間と手間をかけてゆったりと織り上げられる。そのため、綿や麻、絹といった素材ごとの自然な味わいが生かされている。あるものはふっくらとやさしく、また別のものはさらりとハリのある触り心地。いずれも使うほど肌になじむ独特の風合いがある。洋服の生地としてアパレル業界からの高い人気を誇る。

後継者不足の克服へ新たな試み

ただ、手作業を伴うことから大量生産ができず、職人の高齢化と後継者不足に悩まされてきた。今回、遠州産地振興協議会(浜松市産業振興課)が主催し、丸三織物をはじめ小野江織物、二橋染工場など産地の各社が協力してインターンシップを実施したのは、就職希望者と事業者をつなぎ、職人技を後世に伝えたいから。

3泊4日で「移住や就職を考えている人」との条件を付けたにもかかわらず、定員10人に47人の応募があった。主催者から事業を受託した浜田美希さん(34)は、「数人しか来ないかも…と心配していたのに、蓋を開ければ熱意あふれる志望動機を書いてくれた応募者ばかり。選考に苦労しました」とうれしい悲鳴を上げていた。

職人に憧れて参加した栄養士の早川幸奈さん(34)は「今は全く違う業種にいるけれど、織り機の部品交換や染色を体験させてもらい、自分の手で遠州織物を手掛けたいと思うようになった」と目を輝かせた。大学3年の土屋凜華さん(20)は、「糸と糸をつなぐ機(はた)結びを習い、切れた糸を替える作業を体験した。将来ものづくりをしたいので、もしかしたら遠州が拠点になるかもしれません」と就職先の選択肢として思いを巡らせていた。

「織物業界や職人の仕事に興味はあるけれど接点がなかったという人が、一歩を踏み出すきっかけになれば」との浜田さんの言葉通り、伝統を大切にする職人の世界にインターンシップを経て飛び込む新参者があらわれて、新しい風を吹き込むのではないか-そんな予感がした。(田中万紀)

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