最後までこだわりたい「現場」 話の肖像画 報道カメラマン・宮嶋茂樹<26>
産経ニュース / 2024年7月27日 10時0分
《「不肖・宮嶋」の代表的スクープとして、週刊文春に掲載された「東京拘置所の麻原彰晃元死刑囚(元オウム真理教教祖)」を真っ先に思い浮かべるファンは多いが…》
私が撮った車いすの麻原元死刑囚は、黒い頭巾をかぶっていて顔全体が見えません。顔が見える写真を撮ったのは、一緒に張り込んだ大倉乾吾カメラマンでした。28年前、平成8年のスクープを覚えてもらえているのはありがたいです。あのときは初公判直前で話題性があったため、大きな話題になりました。
でも、私と麻原元死刑囚との関わりが、あのときだけだと思われるのは少し心外です。なぜなら、あの写真を撮る何年も前、反社会的な活動が問題視されるようになったころから、教団を追っていたからです。静岡県富士宮市にあった教団施設を初めて取材したのは元年11月。そのころ、積極的に報じていたのは週刊文春とフォーカス、サンデー毎日くらいでした。
当時、宗教団体に対しては警察も及び腰でした。後になって分かることですが、教団の活動を批判していた横浜市の弁護士、坂本堤さん一家3人を教団幹部が殺害するくらい、彼らは凶暴でした。弁護士一家の事件を取り上げた週刊文春が発売された日には、アパートの私の部屋にだけ、大量のオウム真理教のビラがドアポストにねじ込まれました。
同じ日、取材に関わった他のスタッフにも同じようなことが起きました。当時は通信関係の会社に勤める信者から個人情報が漏れたのでは、といわれていました。情報管理が甘かった時代です。あれが、「自宅は分かってるぞ」という教団の脅しだったのは間違いありません。
教団施設の外から巨大な脚立を使って撮影していて大騒ぎになり、女性幹部や信者に引きずり下ろされ、身の危険を感じたこともありました。編集部の判断でアパートに帰らず、ホテル住まいをしたこともありました。何度もひどい目に遭っていて、教団に対する恨みは人一倍大きいです。ただ、教団を取材する中で起きたさまざまな脅迫や嫌がらせに、一切ひるむことなく批判的な姿勢を貫いたことは胸を張れます。
《信じられる報道関係者とは。答えは単純明快だ》
一連のオウム真理教取材で、大変な思いを一緒にしたのがライターの江川紹子さんです。江川さんは自宅を突き止められて、猛毒のガス「ホスゲン」を部屋にまかれ、命の危険にさらされました。教団の記者会見で2人して追い出されたこともあります。
江川さんは自衛隊のPKO派遣に関する認識や政治的スタンスなど、私とは考え方が全く違います。でも、一緒に修羅場をくぐった経験が何度もあり、そこは信頼しています。「現場へ行かずに自分と同じような意見を言う人」と、「考え方は異なるが、現場を見た上で自分の考えを持っている人」だったら、信用できるのは後者です。
報道カメラマンの世界も同じで、ニュースの切り口が違っても現場で苦労をともにした人は信じられます。意見の違いは議論すればいいんです。分かり合えるかは別ですが。
《最後までこだわりたいのは「現場」》
報道写真に説得力を持たせるには「ニュースの現場に足を運び自分の目で見る」という大前提が欠かせません。そこが、人から聞いた話だけでも記事が書ける記者との違いです。だからこそ、自分は最後まで現場にこだわりたい。まだまだ「こういう写真を撮りたい」というアイデアもたくさんあり、やり残していることもあります。「口舌の徒」にはなりたくありません。報道カメラマンですから。(聞き手 芹沢伸生)
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