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鯨類飼育の変遷⑧ 飼育世界記録を2年更新 くじら日記

産経ニュース / 2024年12月19日 7時0分

クジラショーでジャンプをするコビレゴンドウのゴンタ=平成7年、和歌山県太地町

1994(平成6)年1月24日、コビレゴンドウの雄「ゴンタ」の飼育日数が、当時の飼育世界最長記録を塗り替えました。獣医師としてゴンタの飼育に関わっていた白水(しろうず)博氏は「神経質で飼育が難しい鯨類、感慨深いこと」と振り返りました。

和歌山県の太地町立くじらの博物館のコビレゴンドウの飼育は1969(昭和44)年のオープン当初までさかのぼります。約40頭のコビレゴンドウが「鯨プール」と呼ばれる自然の入り江に運び込まれ、「放し飼い」が始まりました。

自然界での暮らしを再現したかのような唯一無二の展示であった一方、広くて管理が行き届かないという課題に直面し、1年も経たずにクジラは姿を消しました。

それからも長期的な飼育ができなかったことから、専門の獣医師の必要性を感じ、1973(同48)年、獣医学部を卒業したばかりの白水氏を迎い入れました。当時、国内における鯨類の診療経験がある獣医師は、神奈川県藤沢市の江の島マリンランド(現在の新江ノ島水族館)と千葉県鴨川市の鴨川シーワールドに所属する2人だけで、白水氏は3人目であったといいます。

経験もノウハウもほとんどない状況で、コビレゴンドウの飼育に真正面から向き合うことになった白水氏は「力不足も痛感したが、突き詰めるしかなかった」と当時の気持ちを語りました。

ゴンタの飼育は1985(同60)年4月6日に始まりました。太地町湾内に追い込まれたコビレゴンドウ70頭以上の中から、ゴンタと別の雄の2頭を搬入しました。オープン当初とは異なり、1頭1頭丁寧に手をかけることができる頭数です。運び入れたのはイルカショープールのサブプールでした。コビレゴンドウは餌付けが難しく、強制給餌が欠かせません。毎日できるように、取り上げが容易な比較的小さいプールを選んだのです。それにより、2週間が経った頃には、ゴンタは投げ入れたイカを食べるようになっていました。

4月21日、ゴンタを自然の入り江である鯨プールに移しました。放し飼いではなく、入り江の一角を網で仕切ったスペースでの飼育です。この外には、バンドウイルカなど他の鯨類が飼育されていて、網越しにコミュニケーションをとれる環境です。

白水氏は、「この広さであればゴンタは自由に泳げるし、必要であれば取り上げて診療することもできる。さらに他の鯨類との関わりが飼育の質を良くし、病気の予防にもなる」と当時の考えを説明しました。オープン当初の教訓が活かされ、ゴンタはくじらの博物館で1995(平成7)年12月16日まで暮らし、飼育世界最長記録を約2年更新することにいたりました。

くじらの博物館には、同年に撮影されたゴンタがクジラショーでジャンプする写真があります。体長4・7メートルを超え、頭部は角張り、「巨頭」(ゴンドウ)の名に恥じない貫禄ある姿がわかります。

白水氏はそれをじっと見て「いい写真だ」と噛み締めるように言い、続けて「コビレゴンドウの飼育を通して、自分たちは技術を磨くことができた」と目を細めました。

(太地町立くじらの博物館館長 稲森大樹)

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