震災の記憶なくても伝え続ける 発災当時2カ月、30歳になった語り部女性の決意
産経ニュース / 2025年1月17日 18時59分
阪神大震災の発生から30年となった17日、震源に近い兵庫県淡路市(淡路島)の北淡震災記念公園で行われた追悼式典には、語り部として活動する地元出身の米山未来(こめやまみく)さん(30)の姿があった。発災当時は生後2カ月。幼すぎた米山さんに被災の記憶はない。それでも震災を語り続けると決意している。「生きたくても生きられなかった命を伝えるため」。
米山さんは震災発生時、両親と旧北淡町(現淡路市)の自宅マンションにいた。家族にけがはなく、建物も持ちこたえた。だが、近くにある父の実家は最終的に全壊。同町では関連死を含め39人が犠牲となった。
米山さんの父、正幸さん(58)はそれから長年にわたり震災の語り部として活動。現在は震災で出現した「野島断層」を保存する北淡震災記念公園の総支配人を務める。そんな父の影響もあり、米山さんも幼いころから震災を意識し、毎年1月17日は米山さんにとって特別な日だった。
だが大学進学で東京に移り住み、「1・17」があまり特別視されていないことにショックを受けた。卒業後は首都圏で会社員として働いていたが、違和感は消えず、気が付くと「震災を伝える取り組みがしたい」との思いが強くなっていた。
平成30年夏ごろ、米山さんは父に相談した。確かに震災の記憶はない。それでも語り部をやってみたい-。父の返事は「やったらええやん」。迷う米山さんの背中を押してくれた。正幸さんは「被災の体験がなくても誰かの思いを伝えたいという心があれば、語り部はできる」と話す。
震災から長い時間が経過し、語り部たちの高齢化は顕著だ。これからも震災の記憶をつなぐには次の世代が担い手になっていく必要がある。
父の言葉に勇気づけられた米山さんは令和元年夏、語り部として始動。スマートフォンアプリを活用したライブ配信で震災について語り、対面の講演も行った。子供に分かりやすく伝えるため、震災で亡くなった小学生が主人公の絵本を朗読するなど工夫を重ねてきた。
それまでは会社員として働きながら合間に活動してきたが、語り部に専念するため昨春、会社を辞めて帰郷した。
「震災の記憶がある人の話を聞きたかった」と言われることもあるが、もう迷いはない。自身に課せられた役割を理解しているからだ。
「『ドン』という大きな音と『あーっ!』っていうお母さんの声に、お父さんは目を覚ましました。お母さんは私の上に覆いかぶさって、その上にお父さんが覆いかぶさって守ってくれました」
昨年12月、米山さんは講師として大阪市で大学生8人に震災発生時の様子を伝えた。教訓を未来に伝える取り組みの一つだ。若い学生らには米山さん同様、震災の記憶はない。今後はそうした人が増えていくからこそ、語り継ぐことがますます重要になる。
発生30年となった17日は北淡震災記念公園で黙禱をささげる市民や、慰霊の竹灯籠など追悼式典の様子を動画で撮影した。今後編集のうえ、交流サイト(SNS)上で発信していく。
震災で奪われた6434人の命。米山さんはその重さを感じながら、これからも語り部として生きていく。
「誰も語らなくなったら、存在していた『命の証し』がなくなってしまう。いずれ起こる次の災害のとき、一つでも多くの命が助かるように」(藤崎真生)
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